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「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/  わたしの若草物語」感情移入と共感の嵐

グレタ・ガーウィグの脚本が素晴らしい

とにかく脚本がいい。登場人物のせりふ一つ一つがグッと心に差し込んでくる。古典文学作品がベースだけれども、現代女性にも充分に共感が得られる名せりふのオンパレードだ。

原作は19世紀のアメリカの中流家庭を描いた   「若草物語」

小学生の頃、図書室で読んだ記憶はあるが、内容はすっかり忘れている。映画「プライドと偏見」(ジェーン・オースティン原作「高慢と偏見」)に近い話だったかなという程度の記憶。実際は違うのだけど。またしても上映が終わる前に早めに観に行かなくてはと、予習もせずに映画館へ駆け込んだ。

クラシカルな映像美の世界

先日観た「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」ではヨーロピアンクラシックな佇まいを感じる映像を満喫した。今回の「ストーリー・オブ・マイライフ」も同様にクラシカルで格調高い香り。家屋などの建築物、インテリア、アンティークの調度品は見ているだけでワクワクする。4姉妹の衣装も美しかった。

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監督のグレタ・ガーウィグは、本作の衣装デザイナーに、『プライドと偏見』と『アンナ・カレニーナ』などの時代設定を衣装によって見せた映画や、それとは真逆の現代的なマイク・リーの映画にも参加したジャクリーン・デュランを起用した。ガーウィグは、古典に現代性を持ち込むことができるデザイナーを探していた。                   (ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント公式HPより引用)

特に今回の役どころでは御曹司というティモシー・シャラメには目を見張るばかり。彼の洗練されたドレスアップスタイルが堪能できるのもうれしい。映像で特に心に残ったのは海岸で4姉妹と男性陣が戯れるシーン。まるで印象派の絵画のような淡くはかない美しさだった。

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ソニー・ピクチャーズ映画部公式HPより


不器用チャンピオンの次女ジョー

ストーリーは次女、ジョーの視点で語られる。とにかくこの4姉妹、それぞれの個性が上手い具合にばらけている。それぞれに不器用な所があるのだが一番不器用チャンピオンなのが次女のジョー。小説家志望で新聞社に原稿を持ち込みつつ、家庭教師をして生計を立てている。

10代で既に「結婚は墓場だ」的思想の持ち主だったのがすごい。田嶋陽子氏や上野千鶴子氏と意気投合しそうなタイプ(笑)ウーマンリブ何それ?!な時代にだ。物書きを目指すような女は勝ち気で男勝り、がさつ・・・な印象なんだろうか。主人公であるジョーは原作者オルコット自身がモデルといわれている。

「結婚は経済」そこには自由がない?

ジョーは「私は一生結婚しない、結婚だけが女の幸せじゃない、自由でいたい」と発言する。そこで資産家で叔母のマーチに「金持ちと結婚しなさい」と言われるのだ。「叔母さんは独身じゃない」と言えば「私にはお金がある」と言い返される始末。マーチ叔母さんは「お金が無いと独身は無理、結婚は経済」とも言っていたような。現実派なメリルストリープ演じるマーチ叔母さん、スパイスの効いたせりふが多い。なかなかの存在感だった。

そして、次女ジョーの対極にいるのが末っ子のエイミー。絵が得意で画家志望なのだが、自分の才能に限界を感じている。こうなったら、とにかく女子力を上げてお金持ちと結婚、リッチな生活を送るという夢に向かってまっしぐらなのだ。

「愛かカネか」末っ子エイミーは経済力重視


もうこの二人の性格を聞いただけでも、バリキャリ系女子とゆるカワ系女子は感情移入してしまいそうではないか。この時代、女性は自分で稼ぐスキルを身につける機会さえ得られないことが大半だった。基本養ってもらう前提で暮らしていて、配偶者の経済力次第で生活の質が決まるのだ。金銭的に安定した生活を手に入れる代わりに、自分の夢を手放して、したたかに生きる現実主義タイプのエイミー。ある意味クレバーな彼女を笑うことはできない。

長女メグは昭和の良妻賢母

長女のメグは好きな男と幸せな家庭を築き、子ども達とつつましく幸せに暮らす典型的な良妻賢母に憧れている。昭和の専業主婦タイプだろうか。愛があれば多少の苦労は乗り越えられる!と目をウルウルさせているタイプ。メグのように「愛があればお金なんて」タイプは恋愛期間中は理想的。だが破綻する夫婦の多くは経済的な理由が大半だというから、やはり危うさをはらんでいる。

三女ベスは物静かな情熱家


そして三女のベスはピアノを弾くのが大好き。恵まれない人を助けるボランティア精神あふれる優しい性格なのだが病弱。困っている人を見たら放っておけない意志の強さはある。現代なら青年海外協力隊や国境なき医師団に志願しそうなタイプだろう。

4人のどこかに自分を重ねてしまう

とにかく4人ともそれぞれ個性的なのだが、どの子にも悩みや葛藤があって姉妹同士、微妙なバランスを保ちながら切磋琢磨して成長していく。ただ、そこに経済的なところや、恋愛における葛藤が絡んでくるのが見どころであり面白いところ。この4人を全部足して割ったら最高なのに・・・と思う。

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ソニー・ピクチャーズ映画部公式HPより

自立した女性に憧れるジョー

一番印象に残ったシーンは、ジョーが兄妹のように仲むつまじかったローリー(シャラメ)のプロポーズを断ってしまうところ。「なんてもったいないことを!」と思わず叫びたくなった(笑)
「私は社交界がきらい、あなたは物書きなんかきらい」と言われたローリーの葛藤も「一生結婚なんてしない自由でいたい」というジョーの気持ちも痛いほどわかる。正直、感情移入し過ぎて涙腺が緩んだ。涙もろくはない方だと自覚していたにも関わらず。

おそらくこの4姉妹の中ではジョーが一番自分に近いキャラクター。なので過剰に感情移入してしまったのだろう。まぁ、自分ならもうちょっとうまくやったかもと思ったが。譲れないもの、妥協できないものがあるのは理解できる。

人生は計算通りに運ばないもの

あと、夢を諦めて資産家との結婚を夢見ていたはずの末っ子エイミーが婚約者のプロポーズを直前で断ったシーンも印象的だった。結局、その人を選ぶのか!それなら最初からそうしておけば良いものを・・・と思ったのはワタシだけではないだろう。
その後のジョーの行動も本当に魂を削るようで辛かった。だが結局の所、彼女は自分自身の力で立ち上がる。身を削って執筆した本はチャンスを掴み出版されることに。家族の応援のもとで新しい恋も始まり、幸せを掴むこともできそうだ。決して悲劇のヒロインに収まっている訳ではない。希望の持てるエンディングだった。

原作「若草物語」を読み直したくなる

あまりにも感化されてしまったワタシは小学生向けの「若草物語」の文庫本を買って帰った。あの頃の屈託のない自分はもういない。だが若草物語の4姉妹と同じく、自身との葛藤は一生続くだろう。恋や愛、経済活動もある程度通り過ぎた今、もう一度読み直してみたい物語になった。

「特典?」ティモシー・シャラメの美も満喫できる

しかし、この映画も当初はあくまで「大画面でティモシー・シャラメを観る」のが目的だったはず(笑)しかし映画自体が想像以上に素晴らしすぎて・・・思わず作品の世界に吸い込まれてしまった。一粒で二度おいしい・・・一挙両得感に満たされるから良しとしよう。

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ソニー・ピクチャーズ映画部公式HPより

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