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藤井風の持つ絶対音感とは何か?

藤井風さんには絶対音感があります。彼は音楽を楽譜がなくても耳で聞いただけでピアノで再現し、その場で移調して演奏しながら歌う即興演奏もできます。なぜこのようなことができるのでしょうか?

彼が幼少時から、どのような音楽教育を受けてきたのか詳細はわかりません。けれども大方の予測は付きます。なぜなら私には絶対音感があるからです。藤井風さんと全く同じという訳ではありませんが、絶対音感についてわかること、感じることを過去に書いたものの中から抜粋、加筆修正してみました。

絶対音感があると、どんな風に音楽が聞こえるのか?

絶対音感とは楽器で基準音A(ラ)を鳴らさなくても、鳴っている音や和音の音名が答えられるというものです。いわば自分の脳の中に音叉の様なものがインプットされていて、楽譜を見ただけで頭の中にメロディやハーモニーが鳴るのです。ただし、この絶対音感は個人差があり精度も異なります。

絶対音感があると何か便利なのか?

絶対音感のせいかどうかはわかりませんが、大人になった今でも携帯の着メロぐらいの短い曲なら、一度聴けば覚えてしまいます。あと、その曲はピアノでアレンジして弾いたり歌ったりもできます。これは幼少時からピアノを弾いていて絶対音感があれば大抵の人は可能でしょう。

藤井風さんが演奏したドン〇ホーテの歌やコンビニのチャイムなどはその良い例。モーツァルトは子どもの頃、ミゼレーレを一度聴いただけで暗譜してしまったという話はよく知られているエピソードです。

音楽以外の音も音階(ドレミ)で聞こえるのか?

 楽器の音や音楽以外の「生活音」に関しては非常に曖昧です。正確な絶対音感の保持者の中には、人の話し声や会話までもが音階や和音で聴こえるという人もいますが、私はそこまではわかりません。

外国人の会話なら、レチタティーヴォ(台詞に乗せた高低差の少ないメロディー)のような感じで、音程があるように聴こえることもありますが、日本人同士の会話であれば、それほどメロディーのようには聴こえません。方言であれば多少は音程があるように聴こえます。

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あとは鳥のさえずりや、車のクラクションはハーモニーで聴こえてくる事が多いです。車に乗っていてウインカーを出している時は、ウインカーのカチ、カチ、という音がファ・ド・ファ・ドと聴こえたりします。
鳥のさえずりも日本で聴くのと外国で聴くのとでは、少しずつピッチや鳴きかたが違うように感じます。そういった日常生活の中の音たちが上手く調和している時は、周りがどんなに騒がしい状況でも、自然音の調和とは素晴らしいものだと聴き入ってしまいます。

音が言葉のように聞こえる?

私にとって「ド」はあくまでも「ド」にしか聴こえません。なので「ド」を「ミ」や「ラ」で歌う移動ド唱法では歌いづらいです。これもどうやら絶対音感のしわざのようです。

脳は"ドレミ"を言語処理!?-脳波により絶対音感の仕組み解明へ-


しかし相対音感(基準になる音に対して、どのくらい音程差があるのかがわかる)を併せ持っているおかげで、一旦フレーズを感覚的に捉えてしまえば、移調にもすぐに対応できます。藤井風さんも、その場の気分なのか声帯のコンディションなのか、ラジオ出演の際「優しさ」をその場で半音低く移調して演奏していた時があったように思います。

絶対音感はどうやって習得するのか?

よくたずねられるのですが、絶対音感の習得に関しては英才教育を受けたわけではありません。4才ごろから約2年間、ごく一般的なソルフェージュと聴音書き取り、新曲視唱のレッスンを受けたくらいです。

その後は週一回ピアノのレッスンに通っていて、10代で音大受験のために音楽理論などのレッスンに通い始めてから、自分に絶対音感があることを自覚しました。

環境的には父が音楽好きだったこともありますが、藤井風さんと同様にピンクレディ、ゴダイゴなど歌謡曲からカーペンターズ、オーケストラ、オペラ、ジャズ、現代音楽まで幅広く聴いていました。ちなみに両親ともピアノは弾けません。

絶対音感があると、音楽をする上で便利なのか?

絶対音感があると、例えば読譜や作曲をする際、頭の中で音を鳴らせる(音を記憶している)ので楽器を必要としません。そこは非常に便利で授業中でも内職ができます(笑)。

メロディーのみでも、聴けばもれなく調性感と和声感が付いてくるといった感じです。調性感やT-S-D-T(和音の進行パターン)も頭の中に備わっているので、楽譜を見なくてもスケールからカデンツまで弾くことができます。

24種類全ての調においてスケール最後のカデンツも感覚的に捉えて(覚えて)いるので、全く苦労はありませんでした。

実は不便な時もある絶対音感

一度楽曲を聴くと大体の雰囲気は覚えてしまいますが、和声感がもともと備わっているので、ついつい耳に頼りすぎて耳コピになってしまいます。そういった理由で楽譜は確認程度に見るくらいで、注意深く読譜をしないクセがあります。

三声の和声を無意識に四声に編曲して弾いてしまったりもしていました。そのため初見演奏や新曲視唱はとても緊張します。

クラシックピアノは長く学んでいましたが、ジャズはジャズ研でかじった程度です。近・現代音楽の複雑な和音やジャズのテンションなどになると、一度に聞き取れる音の数は少なくなります。

つまり自分の予測可能な音の動きや、クラシックではあまり使われないような不協和音では瞬時に聞き取るのが難しいのです。

絶対音感があると音楽的に優れているのか?

実際、音楽を再現するという事に関しては、絶対音感を持っていた方が作業効率は良いでしょう。

しかし演奏に絶対音感が必要かというと、必ずしもそうではありません。演奏の際は、自分の出している音が周りの音と上手く調和しているかを聴き取る相対音感が必要です。

いくら自分の出している音が正確な音程であったとしても、演奏する曲目やアンサンブルを組む他の楽器と上手く溶け合い共鳴しなければ、全体としての響きは美しく聴こえないのです。アンサンブルにおいては絶対音感や平均律は必ずしもパーフェクトな存在ではありません。あくまでも音の高低の基準でしかないのです。

絶対音感のある人の脳は何が違うのか?

絶対音感については、沢山の本が出版されており、大学でも研究対象となっています。新潟大学脳研究所統合脳機能研究センターなどの研究グループは

「絶対音感がある人の音の処理は、脳の聴覚野で左半球が優位であったことを脳波から解明し、左半球が担う言語処理との関わりを推定している。」

としています。

同研究センター特任准教授 伊藤浩介らの研究グループは、絶対音感 の脳の仕組みを調べるため、“ド”の音に対する脳応答を、左右の聴覚野から脳波で記録しました。

脳は“ドレミ”を言語処理!?-脳波により絶対音感の仕組み解明へ-

https://www.bri.niigata-u.ac.jp/result/re_190807.pdf

「絶対音感のない音楽家や、音楽経験のない者では、脳応答の大きさに左右差はありませんでしたが、絶対音感のある音楽家では、それが左優位でした。脳の左半球は言語の処理に関わります。絶対音感では、ドレミなどの音を言語のように処理することを示唆する結果です」

とあります。

絶対音感を共有することは難しい。実は孤独な世界

音や感覚といったものは目には見えません。つまり絶対音感を持つ人間が沢山いても、その感覚の世界を誰かと共有することは難しい。

結局、形のない感覚の世界は自分だけのものであり、一生誰にも理解されることがないかも知れません。

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