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梅のつぼみの恋ごころ

ふだんはあまり目立たない『万葉集』ですが、元号「令和」の典拠となったことで、昨年はちょっとしたブームになりましたね。

令和という漢字は、九州の太宰府で行われた「梅花の宴」の一連の和歌の序文に由来します。大宰府の長官であった大伴旅人(おおとものたびと) が主催したこの歌会では、集まった官人たちが次々と梅花を愛でる歌を詠みました。序文に続き、連作32首が収められています(『万葉集』巻5) 。

花といえば今は桜ですが、万葉の時代は梅でした。
梅の和歌は、上の「梅花の宴」の歌も含めて120首ほどあるのですが、わたしはこの歌にひとめぼれしてしまいました。

梅の花 咲けるが中に ふふめるは
恋や隠(こも) れる 雪を待つとか
(巻19・4283)

梅の花が咲いているなかに
まだつぼみのままの花がいるよ
そのつぼみのなかには
恋ごころをこっそり隠しているのかな?
それとも
雪が降るのを待っているの?

って、ねー。
胸のうちに恋ごころを秘めた瑞々しい少女の姿が思い浮かんで、ちょっとキュンとなっちゃいましたよ。

「ふふめる」は、まだ開ききらない花のようすをあらわす言葉なのだそう。なんだかかわいい響きで、つい声に出してみたくなります。

『万葉集』が編纂された時代には、まだひらがなもカタカナもなかったため、全文が漢字で書かれているのですが、この和歌にある「恋」という字には旧字体「戀」が使われています。

戀。分解すると、糸し糸しと言う心。つまり恋は、いとしい、いとしいと思う心。

これは江戸時代の「都々逸(どどいつ)」(都々逸坊扇歌によって大成された七・七・七・五の定型詩) にあるそうですが、漢字の意味と語呂合わせがぴったりだと思いませんか?眺めれば眺めるほど美しい字だなあと感心します。

こんなふうに、歌の解釈だけでなく文字に着目するのも、ひとつの楽しみかたなのかもしれませんね。

あっ、ちなみにトップの写真は、我が家の庭の梅。ちょっと弱ってたけど、がんばって咲いてくれました(*´ω`*)

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