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「おじいちゃんは幽霊探偵」第一章 ~幽霊おじいさんの遺品整理~

キャラクター

ハル・タカハシ(高橋 ハル)
20代後半。男性。フリーランスのイラストレーター。優しく、好奇心旺盛で、忍耐強い。困難に直面しても決して諦めない粘り強さを持つ。幼い頃から祖父の家にまつわる不思議な話を聞いて育った。アーティスティックな才能を活かし、イラストレーターとして働きながら、祖父の未解決事件をきっかけに冒険へと身を投じる。絵を描くことで心を落ち着かせる。観察力に優れ、細かなディテールを見逃さない。

幽霊のおじいさん(高橋 達也)
享年75歳。男性。生前は探偵。好奇心旺盛で冒険心に溢れた性格。愛する家族を守るために、自らの手で謎を残す。生前は名の知れた探偵で、数々の事件を解決してきた。死後も家族を守るために、未解決の謎をハルに託す。優れた推理力と洞察力を持ち、現世に影響を与える力がある。

幸助(こうすけ)
30代前半。男性。自由人で発明家。陽気で社交的、ちょっとお調子者だが、親友のためなら全力を尽くす頼りがいのある性格。幼馴染のハルとは長年の友人。独自の発明で家を謎解きの迷宮にしている。過去に失敗作でトラブルを起こした経験があるが、それを教訓に日々精進している。創造力豊かで、複雑な仕掛けやパズルを作る才能がある。機械いじりと数学の天才。

クローディア・シュミット
40代前半。女性。幽霊研究家、民俗学者。知的で分析的な性格。好奇心旺盛で、幽霊の存在に対して科学的な興味を持っている。幼少期に幽霊を目撃した経験から幽霊研究に没頭するようになる。ドイツから日本に移り住み、古い城に自らの研究室を構えている。彼女の過去には失われた遺産を追う冒険家としての一面も。幽霊とコミュニケーションを取るための特殊な器具を開発し、オカルトと科学を融合させた独自の研究を進めている。

ミスター・ミーロ
年齢不明(猫)。オス。黒猫。賢く、クローディアに忠実だが、時に自分勝手な行動をすることもある。クローディアの飼い猫で、彼女と共に幽霊研究を手伝う。特定の状況でのみ言葉を話すことができる。 霊感が強く、幽霊の存在を感知することができる。クローディアを手助けし、ハルたちにヒントを与える。

第一章 ~幽霊おじいさんの遺品整理

「ハルくん、おじいちゃんの遺品整理を頼むよ」

母からの電話を切った瞬間、高橋ハルは深いため息をついた。フリーランスのイラストレーターとして忙しい日々を送る彼にとって、突然の依頼は予想外だった。しかし、幼い頃から慕っていたおじいちゃんのためなら、仕事の締め切りを少々遅らせても仕方ない。そう自分に言い聞かせながら、ハルは実家への帰省を決意した。

故郷に着いたハルを出迎えたのは、まるで時が止まったかのような古びた石造りの邸宅だった。庭には雑草が生い茂り、かつての美しさを忍ばせる花壇は今や野生の植物の楽園と化していた。玄関に立つと、幼い頃の記憶が鮮明によみがえってきた。おじいちゃんが語ってくれた不思議な冒険譚、そして「いつかお前にも、この家の秘密を教えてやろう」と言っていたことを。

「まさか、その時が来るとは」

ハルは鍵を回し、重々しい扉を開けた。

中に入ると、埃っぽい空気と共に懐かしい匂いが鼻をくすぐった。リビングルームには、ヴィクトリア朝を思わせる華麗な家具が並び、壁にはおじいちゃんが世界中を旅した際に集めたエキゾチックな装飾品が飾られている。一方で和室は、昭和の香りを漂わせながら静寂に包まれていた。

「さて、どこから手をつけようか」

ハルが途方に暮れていると、突如として耳慣れた声が響いた。

「やあ、ハルくん。久しぶりだね」

振り向くと、そこにはおじいちゃんが立っていた。透き通るような姿で。

「お、おじいちゃん!? 幽霊!?」

驚きのあまり後ずさりしたハルだったが、おじいちゃんの優しい笑顔に安堵感を覚えた。

「そうさ、幽霊だよ。驚いたかい?」

「驚いたどころじゃないよ! でも...なんで?」

おじいちゃんは、生前と変わらぬユーモアたっぷりの口調で説明を始めた。

「実はな、ハルくん。おじいちゃんには、まだやり残した仕事があってね。その仕事を終えるまでは、この世を去ることができないんだ」

「仕事? おじいちゃんの仕事って...探偵の?」

「そう、探偵としての最後の仕事さ。そして、その仕事を手伝ってほしいのは、他でもないキミなんだ」

ハルは困惑しつつも、好奇心に駆られていた。幼い頃から聞かされていたおじいちゃんの冒険譚が、今まさに自分の目の前で繰り広げられようとしているのだ。

「僕に何ができるっていうの?」

「簡単さ。この家に隠された謎を解いてほしいんだ。おじいちゃんの遺品の中に、手がかりが隠されている。それを見つけ出し、解読することで、家族に隠された秘密が明らかになる」

おじいちゃんの言葉に、ハルの目が輝いた。イラストレーターとしての観察眼と、幼い頃から培ってきた謎解きの才能が、きっと役立つはずだ。

「わかった、やってみるよ。でも、どこから始めればいいの?」

おじいちゃんは、ニヤリと笑って言った。

「まずは、あの本棚の奥にある隠し扉を見つけるんだ。そこから、君の冒険が始まるよ」

ハルは意気揚々と本棚に向かった。しかし、何度探しても隠し扉らしきものは見つからない。

「おかしいな...」

そう呟いた瞬間、ハルの足元でミシッという音がした。床板が動いたのだ。

「あれ? おじいちゃん、床下に...」

振り返るとそこには誰もいなかった。おじいちゃんの姿は消えていた。

「まったく、相変わらずのおじいちゃんだな...」

ハルは苦笑いしながら、床下への入り口を開けた。そこには、埃まみれの古い箱が置かれていた。開けてみると、中には古ぼけた写真、黄ばんだ手紙、そしておじいちゃんの日記が入っていた。

「これが、最初の手がかりか...」

ハルが日記を開くと、そこには暗号のような文字列が書かれていた。

「さて、どうやって解読すればいいんだ?」

悩むハルの前に、再びおじいちゃんが現れた。

「困ったときは、友達を頼るのも手だぞ」

「友達? ああ、もしかして...」

ハルの頭に、ある人物が浮かんだ。幼なじみで、奇想天外な発明家の幸助だ。

「そうさ。幸助くんのところへ行ってごらん。彼なら、きっと力になってくれるはずだ」

おじいちゃんの言葉に頷いたハルは、幸助の家に向かうことを決意した。

幸助の家は、外見は普通の日本家屋だが、中に入ると別世界だった。壁には奇妙な図形が浮かび上がり、扉は自動的に開閉する。木の温もりを感じさせる内装だが、どこか近未来的な雰囲気も漂う不思議な空間だ。

「おう、ハル! 久しぶり!」

幸助は相変わらずの陽気な笑顔で出迎えてくれた。

「幸助、助けてくれないか? おじいちゃんの遺品に隠された謎を解きたいんだ」

ハルが状況を説明すると、幸助の目が輝いた。

「面白そうじゃないか! よし、僕の最新発明で君を手伝おう!」

幸助は得意げに自慢の発明品を見せ始めた。しかし、その中にはとんでもない失敗作も...。

「これは、物体を透視できる眼鏡...のはずだったんだ。でも、今のところ下着しか透視できないんだよね」

ハルは冷や汗を流しながら、そっと眼鏡を置いた。

「それより、この暗号を解読する方法はないかな?」

ハルがおじいちゃんの日記を見せると、幸助は真剣な表情になった。

「ふむふむ...なるほど、これは面白い暗号だ。でも、解くには特別な鍵が必要みたいだね」

「鍵?」

「ああ、この暗号、数字と文字が組み合わさっているんだ。普通の解読方法じゃ歯が立たない」

幸助は考え込んだ後、急に顔を輝かせた。

「そうだ! 僕の家全体を使って、この暗号を解いてみようじゃないか!」

「家全体を...使う?」

ハルが首を傾げていると、幸助は得意げに説明を始めた。

「この家は、僕が作った巨大なパズルゲームなんだ。各部屋に仕掛けがあって、それを解くと次の部屋に進める。最後の部屋に到達すれば、きっとその暗号を解く鍵が見つかるはずさ!」

ハルは呆れながらも、幸助の熱意に押されて同意した。こうして、幸助の奇妙な家を舞台にした謎解きが始まった。

最初の部屋は、巨大な数独パズルだった。壁一面に描かれた数字を正しく並べ替えると、次の部屋への扉が開く仕組みだ。

「よし、これなら得意分野だ!」

ハルは集中して数字を並べ替えていく。しかし、途中で行き詰まってしまった。

「あれ? おかしいな...」

「ハハハ、これは普通の数独じゃないんだ。3次元で考えないとね!」

幸助のアドバイスに、ハルは目を丸くした。確かに、よく見ると数字が浮き出て見える。立体的に考えると、あっという間にパズルは解けた。

「さすが幸助、こんな仕掛けを考えるなんて...」

感心しつつ、次の部屋に進むハル。そこで待っていたのは、巨大な三目並べだった。

「これは簡単そうだな」

そう思ったのも束の間、マス目に入れる○×が、なんと立体的なパーツになっている。重さや形状が全て違うため、バランスを取りながら置いていく必要があった。

「うわっ!」

バランスを崩し、ハルの顔めがけて○が落ちてきた。幸いにも避けられたが、冷や汗もので。

「気をつけてね。これは僕の失敗作コレクションの一つなんだ。本当は重力を無視できる三目並べにしたかったんだけど...」

幸助は少し申し訳なさそうに笑った。

苦労の末、三目並べもクリア。次の部屋に進むと、そこには複雑な立体パズルが。まるでエッシャーの絵画のように、上下左右の概念が歪んでいる。

「これは...どう解けばいいんだ?」

ハルが途方に暮れていると、幸助がニヤリと笑った。

「ヒントをあげよう。この部屋で重力の方向は一定じゃないんだ」

言われてみれば、確かに床を歩いているはずが、いつの間にか壁を歩いている。天井が床に、壁が天井になる。

「まるで『インセプション』の世界だな...」

映画の一場面を思い出しながら、ハルは慎重にパズルを解いていく。途中、天地逆さまになって目が回りそうになったが、なんとかクリア。

「はぁ...はぁ...次はなんだ?」

疲れ切ったハルの前に現れたのは、暗号解読の部屋。壁一面に文字や数字が書かれており、それを正しい順序で読み解く必要がある。

「これは...おじいちゃんの日記の暗号と似てる!」

ハルは日記を取り出し、壁の暗号と見比べた。すると、不思議なことに日記の文字が光り始めた。

「これは...U・V・B・F・O?」

その瞬間、部屋の中央に隠されていたトラップドアが開いた。中には、古ぼけた箱が。

「やった! これが暗号解読の鍵かもしれない!」

興奮冷めやらぬハルだったが、幸助は少し心配そうな表情を浮かべた。

「ハル、その箱...開ける前に言っておくけど」

「なに?」

「もしかしたら、とんでもないものが入ってるかもしれないよ。僕の発明品の中には、予想外の結果をもたらすものもあるからね」

幸助の言葉に、ハルは一瞬躊躇した。しかし、ここまで来て引き返すわけにはいかない。

「開けるよ」

ゆっくりと箱の蓋を開けると、中から不思議な光が漏れ出た。そして、その光の中から現れたのは...

「にゃー」

一匹の黒猫だった。

「えっ? 猫?」

驚くハルとは対照的に、幸助は目を輝かせた。

「すごい! これは幽霊猫に違いない!」

「幽霊...猫?」

ハルが首を傾げていると、突如として猫が口を開いた。

「私の名前はミスター・ミーロ。クローディア様のお使いで参った」

話す猫の出現に、ハルは完全に混乱した。一方、幸助は大はしゃぎだ。

「わあ! 本当に話した! ねえハル、この猫を解析させてよ!」

「だめだよ! それに、クローディアって誰だ?」

ミスター・ミーロは、その大きな黄色い目でハルと幸助を交互に見つめながら、優雅に前足を舐め始めた。

「クローディア様は、幽霊研究の第一人者にして、私の飼い主であられる。彼女は、高橋達也氏...つまり、ハルさんのおじい様の遺品に強い興味をお持ちでね」

ハルは眉をひそめた。「おじいちゃんの遺品が、なぜ幽霊研究家の興味を引くんだ?」

ミスター・ミーロは、まるで人間のように肩をすくめた。「それはね、高橋達也氏が生前、幽霊と交信する方法を発見したという噂があるからさ」

「えっ!?」幸助が食いつくように前のめりになる。「そんな凄いことが可能なの!?」

「可能か不可能かは、まだ誰にも分からない」ミーロは尻尾を優雅に揺らしながら答えた。「だからこそ、クローディア様は必死になって真相を追い求めているのさ」

ハルは困惑した顔で頭を掻いた。「でも、おじいちゃんはただの探偵だったはずだよ。幽霊なんかと...」

その時、ハルの脳裏に、幽霊となったおじいちゃんの姿が蘇った。「まさか...」

ミーロはにやりと笑った。「そう、君のおじい様は確かに探偵だった。しかし、彼が追い求めていた真実は、この世のものだけではなかったのさ」

幸助は興奮で跳ね上がりそうだった。「すごい! これは大発見だよ、ハル! 僕たちは歴史的な謎に挑戦しているんだ!」

ハルはため息をついた。「いや、僕はただおじいちゃんの遺品を整理するつもりだったんだけどな...」

ミーロは、そんなハルの言葉を無視するかのように話を続けた。「クローディア様は、高橋達也氏の研究の続きを完成させたいと考えておられる。そして、その鍵となるのが、君たちが今解読しようとしている暗号なんだ」

「でも、なんでそんなに急ぐ必要があるんだ?」ハルは不思議に思って尋ねた。

ミーロの表情が一瞬曇った。「それはね...この世とあの世の境界が薄れつつあるからさ。もし適切な対処をしなければ、両世界のバランスが崩れてしまう可能性があるんだ」

「えっ、それって...」幸助が目を丸くする。

「そう、最悪の場合、幽霊があふれかえる世界になってしまうかもしれない」ミーロは厳しい表情で言った。

ハルは急に背筋が寒くなるのを感じた。おじいちゃんの遺品整理が、こんな大事な任務につながるとは思ってもみなかった。

「じゃあ、僕たちはどうすればいいんだ?」ハルは決意を込めて尋ねた。

ミーロは満足そうに頷いた。「まずは、その暗号を解読することだ。そして、クローディア様の元へ来てほしい。彼女の研究所で、君たちの力を借りたいんだ」

幸助は目を輝かせた。「研究所!? そりゃ楽しそうだ!」

ハルは少し躊躇したが、すぐに決心がついた。「わかった。僕たちにできることがあるなら、協力するよ」

「素晴らしい決断だ」ミーロは優雅に立ち上がった。「では、準備ができたら、この呪文を唱えてくれ。『月明かりの下、影は踊る。扉よ開け、秘密の城へ』。そうすれば、クローディア様の研究所へと導かれる」

言い終わるや否や、ミーロの姿が霧のように消えていった。

部屋に残されたハルと幸助は、しばらく呆然としていた。

「ねえハル」幸助が静かに言った。「僕たち、とんでもないことに巻き込まれちゃったみたいだね」

ハルは深いため息をついた。「ああ、本当にそうみたいだ。でも...」

「でも?」

「なんだか、わくわくしてきたよ」ハルは少し照れくさそうに笑った。

幸助も大きくうなずいた。「うん、僕もだ! さあ、暗号解読に取り掛かろう!」

こうして、ハルと幸助の予想外の冒険は、さらに大きな展開を見せ始めた。彼らはまだ知らない。この先に待ち受ける驚きと危険を。そして、彼らの行動が世界の運命を左右することになるとは...。

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