「遺品の記憶」 第三章 ~秘密の霧~
蝉の声が遠のき、秋の気配が忍び寄る八月の終わり。一郎は手の中の古びた鍵を見つめ、その冷たく重い感触に父の存在を感じていた。父の遺品の中から見つけたこの鍵は、一見何の変哲もない代物だったが、一郎の心に奇妙な予感、いや、むしろ運命的な直感を呼び起こしていた。
父の残した手紙には、この鍵についての具体的な記述はなかった。しかし、「守る」という言葉が、まるで呪文のように繰り返し登場していた。その度に、父の筆跡は少しずつ乱れ、紙面に滲んだインクの跡が、父の内なる葛藤を物語っているかの