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ミライノオトモニターNo.9「何もしないわたしで。」
振り返ると、いろんな顔が思い出される。
私がここまでくる過程で、関わってくれた人、そして、この仕事を始めてから、関わってくれた人。
相当な数だったのだ、と改めて思う。
そして、これから出会う人たちは、さらに更新されていくのだろう。
そんなことをぼんやりと思いながら、歩いていると、目の前にうずくまっているご婦人が目に飛び込んできた。
「どうなさいました?大丈夫ですか?」
私の問いかけに、彼女は苦しそうな息の下からひねり出した、か細い小鳥のような声で
「大丈夫です・・・いつものことなので」
いつものこと、と言っても、こんな風になるのがいつものことであるなら、相当苦しいだろうと思う。
用事があるにはあったが、今じゃなくてもいい。
今はこの方に寄り添うことが最優先事項だ。
とりあえず、道の端の木陰へとお連れする。
汗ばむだろうと持っていきていた、少し大きめのハンドタオルをアスファルトの上に敷き、座っていただけるように腰に手を添えて、誘導した。
ご婦人は、よろよろとはしていたものの、意外にスムーズに移動し、ハンドタオルの上に腰をおろした。「いつものこと」だからかもしれない。
「あの、救急車……か、どなたかにご連絡いたしましょうか?」
「ああ、ありがとうございます……少し静かにしていたら、おさまるんです。
連絡の必要はありません、ありがとう」
そう言うと、カバンからハンカチと水筒をゆっくりと取り出し、口に飲み物を含まれた。
その様子を見て、なんか大丈夫そう……という感じと、もう少し、この方のそばにいたい…という気持ちが湧いてくる。
「お宅はどちらですか?もしよかったらお送りしましょうか」
ご婦人は、嬉しいような、ちょっと困ったような顔をしてこう言った。
「ありがとう。あなたは優しいのね。お気遣い嬉しいです。
でも、先ほども言いましたけど、いつものことですし、大丈夫なの」
「そうですか…」
私が持っているツールで、何かのお役に立てるかもしれない。
そう思っていたところで、手助けが必要だろうと感じたから申し出たのだが…
少し残念な気持ちを感じていた時、ご婦人が私の目をじっと見てこう続けた。
「やっぱり、送って行っていただけないかしら。
あなたと少し話がしたいの」
話とは、一体なんだろう。
全く想像がつかなかったが、ご婦人のお身体のこともやはり心配だ。
言われるままにお宅までお送りすることになった。
と言っても、すぐにタクシーを拾ったので、その乗り降りのちょっとした介助をさせていただいた程度であったが。
ごく普通の戸建ての住宅、そしてごく普通のリビングまでご婦人の腰に手を添えて歩き、ソファまでお願いします、という言葉通りに寄り添って歩く。
ソファに深く腰掛けた彼女は、ふう、と大きな息を吐いて目を瞑った。
「あの、何かお手伝いすることはあるでしょうか?」
「ああ、ごめんなさいね…私がお誘いしたのに、お茶も何も出さずに」
「いえ、それはお構いなく…それよりも、何かお困りではないでしょうか?」
「いいの、私は何も困ることはないんですよ。
こうして、帰る家があって、迎えてくれる家族がいて。
送ってくださる、ご親切なあなたがいて」
家族、というのは彼女の足元に寄り添ってきた猫ちゃんのことだろうか。
他にもご家族がいらっしゃるのかどうか…なんとなく、お一人でお住まいなのではないかという感じがした。
それならば、「いつものこと」とは言え、あのような状態になった時に誰もいなければそれはとても困ること、大変なことではないだろうか。
いや、このご時世、見守りサービスやらもあることだし、私が色々考える必要はないのかもしれないが…
黙っている私に、彼女は言葉を投げかけた。
「あなたは、何か人のお役に立つことをしていらっしゃる方なの?」
なぜ分かったのだろう?とも思ったが、一連の流れからそういう予想になることも想像に難くない。
しかし、そういう響きではなかった、なんと言うか、もっと奥深くを見られているような感覚がしたのだ。
「あ、はい…そうなんです。
この世の中で、生きづらい思いを抱えていらっしゃる方の、お役に立てればと思っておりまして」
「やっぱりそうなのね。
なんとなくですけど、そんな感じがしたの。
それも、たくさんの人に対してお役に立ちたいと思っていらっしゃる?」
「ええ…自分の体験も含めて、声をあげないけれども、どこか苦しい思いをされている方が多い世の中ではないかと思っています。
私は、そのような方達が、もっと自分であることを楽しみ、人生を歩いていけるようになれば…との思いを持って色々と、始めているところなんです」
時々、ゆっくりとうなづきながら聴いてくださるそのお顔、そして醸し出される空気感からは、なんとも言えない暖かさと包容力…そんなありきたりの言葉では表現できないような、光のようなものを感じた。
それは、なぜかずっと以前に体験したことのあるような感覚だった。
どこでだか、誰だかは思い出せないけれど、誰もが知っている感覚ではないかと直感で感じたその時に、彼女がゆっくりと口を開いた。
「あなたは、何もしないと約束してちょうだい」
「え…何も、しない、ですか?」
「そう、何もしない、何かをする必要はないということ」
「でも…先ほどお話ししたように、もうすでに関わらせていただいている方もいることですし、何もしないというわけには…」
「ふふふ、そう言うと思ったわ。
ここから少し、老いぼれの昔話を聞いてちょうだい、ね?」
そして彼女の口からは、自身の半生、特に結婚してからの話を聞くこととなった。
大企業グループのトップの妻となったこと、その中での様々な軋轢やしがらみ、夫との死別、その相続の騒動、そして引き継いだ溢れる富をどのように分配しているのか。
数々の団体への支援などを行ってきたが、どうしても一つ気になることがあって、いつも悲しい決別となってしまうこと。
「誰かの力になりたい、そういう気持ちが溢れすぎてしまうのかしら…
支援する側、される側の溝が深まってしまうことがあって。
それが残念でならないんです。
何度も何度もそんなことがあって、一旦は支援を全てストップしている状態なの」
彼女はなおも言葉を続ける。
「ひょっとして、私の支援先を選ぶ基準がおかしいのかもしれない…なら、いっそのこと全く予想していないことをやってみようかと思ったの。
もし、私が発作を起こして、誰かが声をかけてくれたら。
そして、その方が何か人のお役に立つことをしている人だったら。
その人に一旦賭けてみようかと思ったの」
それは、あまりにも無謀すぎやしないだろうか…
もしかしたら詐欺にあうかもしれないじゃないか。
そして、そう返そうとも思ったが、この聡明な方がそんな予想をしないわけもないと思う。
そうだとしたら、相当な現状打破の壁の前にいらっしゃるのではないかと思った。
「そうなんですね…
あの、先ほどおっしゃられた「何もしない」というのは…」
ふふ、と小さな笑みを浮かべて彼女は言った。
「あなたの、そのあり方をただ見せてちょうだい。
それが一番の綺羅星のように、その人たちが「そこに行きたい」と思えるような輝きを放っていて。
個々には誰しもが、いろんな体験、思いを抱えていることでしょう。
そしてそれはその人たちが自ら歩いていくために、必要な宝石だと私は思っているの。
ただ、今は石ころに見えているかもしれないし、触るのも汚いものに見えているかもしれない。
それらを全て綺麗にしていくやり方もあるだろうし、自分を引き止めるものとして抱えてもなお、進みたくなるかもしれない。
あなたは、自分が綺羅星にもなるけれど、その方達の綺羅星も一緒に見る、そこに行けることを信頼する。
ただ、それだけでいいのではないかと思うのです」
ただただ、言葉が体に染み込んでいった。
それは不思議な安心感と、爽やかさ、軽さを私の体の細部まで届けてくれる感じがした。
細胞が、ぷちぷちと音を立てているような、不思議な感覚。
「こんなお話し、よくご存知かもしれなかったわね。
余計なお話をしてしまったかもしれません、ごめんなさいね。
でもこれをしてくれるとお約束してくださるなら…
そんな方達が集えるリアルやネットのコミュニティの運営をしてくださらないかしら。
実は、もうほとんど完成に近いの。ただ、誰がこの場所にきてくれるかを、待っていたんです」
そう語り、そっと私の手に触れた彼女の手のひらからは、しっとりとした感触と、先ほどの包み込むような光を感じた。
あまりにも心地よすぎて、私はまた言葉を無くしてしまう。
いや、言葉では語れない膨大なものが湧き上がってくる。
これをどのように表現したらよいか、戸惑いもあるが…
私がすぐにできることは、彼女の手を握り返すこと。
暖かさを分け合うことから、始めようと思ったのだった。
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「ミライノオト・モニターシリーズ」
MIERUKAアーティストAKARIが綴る、
お申込みくださった方の「勝手な未来の妄想ストーリー」
今回は「生きづらさを抱えている人」のために
新しいことを始めたいとお考えの方からストーリーのご依頼でした。
モニター募集時の記事はこちら
https://resast.jp/events/YjkwYzc3NWQ4M
<追記>
本募集が始まりました!
小さな本のタイプと、動画タイプをお送りしています。
現在こちらで受け付けています。
https://resast.jp/inquiry/ZjI3OTgyNzQwM
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以下は、お申込みくださった方のご感想です。
・今回お申込みいただいたきっかけ、何にピンと来たかなどお知らせください。
自分で考えつくことは現状の内側でしかない気がして、 AKARIさんが考える、私の想定外のストーリーを読みたいと思いました。
・届いた妄想ストーリーのご感想をお願いいたします
AKARIさん、本当にありがとうございました。
ミライノオトを読んで、優しく明るい光に包まれた気持ちになりました。
無料のヒーリングセッションを始めて、 「相手を良くしてあげたい」という気持ちもエゴだなと感じていたところでした。
両親のこととは関係のない、子供の頃に夢中になってやっていたことを 1つ1つやっていこうと思っていたところに届いたミライノオトだったので、 好きなことを夢中になってやる姿が、誰かを励ますことになればそれでいいかなぁと感じました。
・このミライノオトはどんな方にオススメしたいでしょうか?
想定外の未来に想像を膨らませてワクワクしたい方にオススメしたいです。 読んでいて、とても楽しい気持ちになりました。
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モニターのご参加ありがとうございました。
未来への一つのヒントとなりましたら幸いです!
この度は本当にありがとうございました^^
さらにミライへ、そのオトを聴きならがら。
MIERUKAアーティストAKARI
ピコンと心が動いた時に、ぽっちり押してくださると、嬉しいです。 より良いものをお届けさせていただくともし火にさせていただきます^^