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Soulblightストーリー&アート「ミライノオト」

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Akariがお届けする、その人の別のパラレルの未来のものがたり。 現状からちょこっと足をはみ出して、ミライのオトに耳を澄ませるご体験を。 お申し込みはこちらから。 https:/…
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記事一覧

ミライノオトモニターNo.1「ミラクルは、不意に」

扉を開けると、新鮮な緑の香りが、ツンと鼻の奥をくすぐる。 この家に来て、数日が経つけれど、なぜだかもうずっと以前から住んでいるような気がしている。 例えば旅行に行ったりして、自宅とは違う天井を見て目覚めると、「あ、ここは家じゃないんだ」ってふと我に返ったりするけれど この家に来て数日なのに、それが起こらない。 それどころかもう、見慣れた天井のように感じている。 隣に寝ているヨシちゃんの寝顔からは、安心した空気を感じる。 病院にいた時とはやはり、別人のようにも見えるそ

ミライノオトモニターNo.2「・・・の森」

寝転がって空を見上げると、大きな雲が小さな雲とくっつきそうになっていた。 こんな風にのんびりと空を眺められるのも、この森があるおかげだと、後ろを振り返る。 今私はお昼休みをもらっているけど、森の中は今日も盛況だ。 BBQを楽しむ人たち、森の中を散策する人たち、走り回るだけで笑いが絶えない子どもたち、私と同じようにのんびりと空を見上げている老夫婦、この時期咲き乱れる花の写真を撮りに来る人たち・・・ 遊び方や楽しみ方はそれぞれで、その「場」を私たちは提供している。 そして

ミライノオトモニターNo.3「ただ、そこにいるだけで」

車窓から見える海を眺めて、もう何度ここに来ただろうと振り返ってみた。 しかしもう数えることができないくらい、回数を重ねていたことに、思わずびっくりする。 この海の近い場所へ呼ばれることもあれば 森の中へ誘われることもあり 山の上にいざなわれることもあれば 洞窟のようなところへ行くこともある。 そこで感じることは、場に満ちているものたちだ。 じめっとした空気のまとわりつきや、磯の香り 近くから遠くから聞こえる鳥の声、葉と葉が重なり合う時に現れる光 虫が小さく歩く音のリズ

ミライノオトモニターN0.4「頂きを知らぬ天へと」

手元に届いたニュースレターを開いて、ほっと胸をなでおろす。 ずっと支援していた案件が、無事に審査を通過したようだ。 ホッとしたからから、一気に力が抜け、ふうっと大きなため息が漏れてしまった。 知らないうちに緊張していたらしい。 こんな時は、体を緩めることと、自分へのご褒美。 とっておきのお茶と、お菓子を少々いただくことにしている。 今の私の体が必要としているものたち。 選ぶことも愛おしいものたちだ。 薬膳師として、子どもから大人、そして家族と同様に大切な愛犬の健やかな日々

ミライノオトモニターN0.5「招かれたその先」

見上げると、青い空。 雲ひとつないところへ、すうっと飛行機雲が通っていく。 よく見ると、微妙なグラデーションである青の中を、これまた微妙なグラデーションの白い線が走っていく。 だんだんと飛行機雲が消えていく様子を見ていると、冷たいような、暖かいような感じが体の中を走り抜ける。 それと同時に、小さな音が聞こえたような気がした。 鈴のような、可愛い音。 「こっちを見て!一緒に遊ぼうよ」 そんな風に聞こえてきそうな、茶目っ気のあるような音。 聞こえてくるままに身をまかせる

ミライノオトモニターN0.6「ただこの身が使われる場所へ」

ここの椅子の座り心地は格別だな、と改めて感じ入りながら、沈む夕日を見つめる。 オレンジと空の色、山の稜線、吹いてくる風、どこかから香る夕飯の匂い、そして小さく聞こえてくる音の数々。 思わず、目を瞑ってこの全てを繊細に感じ取りたくなってしまう。 そして、それだけの時間的精神的余裕が今の自分にあることを、今一度感じてみる。 呼吸はゆっくりと深くなっていき、胸と腹のあたりがどんどんと緩み、そして広がっていく感覚がただ、続いている。 とてつもない、何と表現していいのか分からないけど

ミライノオトモニターN0.7「ない、が、ある、に変わる時」

日が落ちていくこの時間の、空の色がとても美しく感じる。 あっという間に太陽は下の方に落ちていき、夜の暗さの割合が増えていく。その、刻々と変わっていく空の色につい見とれてしまう。 もう2度と見られないものをこの瞬間感じているし、どこからか夜のとばりが降りる音が聞こえてきそうな気もして。 少しさみしい感覚があるのと同時に、この人が今隣にいてくれてよかった、と思えることに、体が思わずふるふると震えてしまいそうな感覚が起こる。 「どうしたの、寒い?」 そう言いながら、彼は繋いで

ミライノオトモニターN0.8「ただそれは起こるだけ」

カタカタと、遠くの空から聞こえる音に耳をすませると、 その音に感じる匂いが不意にやってくる。 今日は、甘い感じ。 花の蜜のような甘さが、ふわっと鼻の奥に広がると、私はふう、と一息ついた。 このサンルームのような場所は、私のアトリエだ。 たくさんの画材と、作品が所狭しと並んでいる・・・・ と言いたいところだけど、作品は手元にほとんどない。 なぜなら、描いた途端に、自分の手を離れていってしまうから。 きっと、昔なら「パトロン」という呼び名であろう人が 今の私には何人かいる。

ミライノオトモニターNo.9「何もしないわたしで。」

振り返ると、いろんな顔が思い出される。 私がここまでくる過程で、関わってくれた人、そして、この仕事を始めてから、関わってくれた人。 相当な数だったのだ、と改めて思う。 そして、これから出会う人たちは、さらに更新されていくのだろう。 そんなことをぼんやりと思いながら、歩いていると、目の前にうずくまっているご婦人が目に飛び込んできた。 「どうなさいました?大丈夫ですか?」 私の問いかけに、彼女は苦しそうな息の下からひねり出した、か細い小鳥のような声で 「大丈夫です・・・いつも

ミライノオトモニターNo.10「さ、次はどこを走ってく?」

ヘルメットを脱ぐと、たらりと汗が背中まで伝う感触がする。 汗ばむ季節だけれども、風を切る爽快感はやはり格別。 これを知ったらやめられない、と毎日でも思ってしまう。 到着したカフェでは、すでにこの地で集っている仲間たちが楽しそうに話をしていた。 「おお、待ってましたよ!はるばるありがとうございます」 「すみませーん、遅くなっちゃった。 ここにくる途中の、教えてもらった岬からの景色が本当に素晴らしくて。つい見とれてしまってたら、こんな時間に…」 「あ〜、それなら仕方ない、

ミライノオトモニターNo.11「無邪気は無敵だった件」

目の前には、カラッと明るい海が広がっている。 水平線をじっと見ていると、そこまで飛んでいけそうな気がする。 潮の香りと波の音は、不思議なハーモニーを奏でている。 海面を撫でる風、目を閉じたくなるけれど見ていたい太陽の光、ジリジリする肌の感覚。 「The夏、だなー!」と、つい独り言がでてしまうくらいの、わかりやすい夏。 だけれども、日本のようにジメッともしていないので、サッパリスッキリな感じだ。 この場所に旅行に行こう、と最初に言い出したのは夫だった。 偶然ネットを見てい

ミライノオトモニターNo.12「翼はいつでも、どこへでも。」

長時間のフライトは、そこをどんな風に快適に過ごせるかにかかっている、と常々思う。 「出たいんです〜」と言って降りられないのが飛行機であるのだから、この空間とこの時間をどれだけ楽しめるか、が今楽しくて仕方がない。 昔とは機内環境も色々変わって来ている。 小さな子ども連れだったら、いろいろと計画しておかなくてはならなかっただろうけど、今は昔ほどではないみたい。 子連れのファミリーが楽しそうに過ごしているのを見て、こっちまでなんだかほんわかした気持ちになる。 今回は、とある国に

ミライノオトモニターNo.13「それは仕事という名の遊び」

ー 「今度はここに描くんだね」 真っ白い壁をパンパンと叩いて、夫がニヤッと笑って振り返る。 「そうだね、初めてだよ、壁に描くのなんて」 私も同じようにニヤッと笑うと、足元にいるワンコが、くるくると二人の間を行ったりきたりする。 つい3日前に我が家に来たワンコには、まだ名前がない。 二人でいま、あれやこれやと案を出し合っているところ。 ひょんなご縁が繋がって、ここに来てくれたこの子だけど、なんというか以前から一緒にいたみたいな気持ちになっている。 3人でいることが、

ミライノオトモニターNo.14「まだ知らない、あなたとわたしと。」

ふと見上げると、夏の太陽がわんわん音を立てて照っている。 このところの暑さときたら、本当に異常だと思うけど ちょっとだけ、それもいいかもしれない、とも思う。 自分の背丈ほど伸びた植物に囲まれていると、世界は一見狭く見える感じがする。 だけれども、私はこの奥に、何か真理のようなものが見える気がするのだ。 目の前に現れているのは、地球上で何億年もここにある大地という愛の中で育まれた、生き生きとした生命であるのだから。 遠くまで意識を飛ばしてみると、ここでは聞こえないものが耳に