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日産自動車への勧告に見る自動車業界と今後について(その2)

こんにちは、あんパパです。

今回は、前記事に引続き、「日産自動車への勧告に見る自動車業界と今後について(その2)」として、私が従事する自動車業界について、中小企業診断士といち社員としての目線から書いて行きたいと思います。

前記事はこちらです。まだお読みになっていない方は一読いただけると幸いです。


物価高騰による価格転嫁の動き

適正な価格とは

皆さんがご存知の通り、政府が先頭に立って昨今の原燃材料の高騰や労務費の高騰を取引価格に反映をするべく、全ての業界において取引価格の見直しが叫ばれています。

また、中小企業庁や公取委が中心になって取引価格の見直しに応じない悪質な事業者の公表やGメンなどを通じて取引価格の適正化、諸物価上昇分の価格転嫁の後押しを行っています。

この動向は自動車業界でも同様で私も仕事柄、こういった取引価格の見直しを取引先さんから申し入れを受けて対応する事が多くなってきました。

私の仕事は多忙になりつつありますが(笑)、世の中的なこういった動き自体は良い事だと思います。

適正価格とは?この問いに容易に答えられる人は居ないと思います。
売り手、買い手の立場、業種、その製品の市場動向等、考慮するべき項目が多すぎて一つの答えはなく最早、禅問答に近いものがあると思います。

世の製造業の調達マンの仕事は業種を問わず、この禅問答の答えを探すことであると言っても過言ではありません。

ただ、自動車メーカーの適正価格の考え方はシンプルではあります。

「競争力があること」

です。言ってしまえば単価が安い事が正義なのです。

自動車業界における価格転嫁は難しかった

その1でも述べましたが、自動車業界は長年の系列取引やピラミッド構造が成熟してきた業界です。このサプライチェーンに参加するサプライヤーは相互に長期的な取引を行なってきました。

自動車部品には一点一点、目標とするべき単価レベルがあります。
それが全て積み上がって一台分のコストになります。

従って、ピラミッド構造の中の部品サプライヤーはこの目標単価レベルの見積にコストを抑えるべく爪に火を灯すような努力を積み重ねています。このコスト低減に対するノウハウは間違いなく日本の自動車業界の競争力の源泉です。

ただ、一方でこのピラミッドの中のこうした風潮の中では価格の値上げを言い辛い雰囲気であり、認められるのも困難な状況であったのは事実だと思います。

日本のモノづくり中でよく耳にする、「創意工夫による生産性の向上やコスト低減」といった言葉の裏には、コスト上昇分は自社内で吸収するなり収益を減らすなりといった自助努力を過度に求める雰囲気があり、なかなかコスト上昇分の価格の転嫁が進まなかった事は否めません。

自動車メーカー視点でも同様な事が言えます。自動車部品はけっこう共通化や標準化が進んでおり、そのような部品が1点あたり数円でも価格が値上がりすれば収益には結構なインパクトがあります。

国内自動車生産台数が頭打ちの中で各社の販売競争が激しく、値下げ競争も発生しているような販売状況の中で、モデル毎の売上の向上が困難な状況ではコストを低減して収益を確保する考え方が自動車業界では一般的な考え方になっていります。

価格転嫁の次に起こる事

価格転嫁の流れは限定的

現在、政府主導の中で各業界で行われている価格転嫁の動きは、今後も中小企業庁や公取委の働きかけもあってある程度はルール化もされて浸透していくものと考えられます。

ただ、「価格転嫁=取引価格の値上げ」がずっと続くかというと私は疑問に思っています。

これは業種によるのかもしれませんが、自動車業界で言うと長くは続かないと予測します。これは先に挙げた日産自動車のような違法な事がまた行われるような環境に戻ると言うことを言っているのではありません。

現在、自動車業界で行われている価格転嫁、取引価格の見直しは過去の負の側面の清算の要素が強いと思ってます。足元の労務費の向上も含まれているとは思いますが。

この清算に要する期間はそんなに長くはありません。

本来、価格の値上げは新たな付加価値に対して行われるべきものですが、従来のピラミッド構造の中において値上げに値する革新的な付加価値の創造がどれほどあったのか?

この点おいては私は厳しい評価です。ですが、ここに部品サプライヤー、特に中小部品メーカーの活路があるとも考えてます(←中小企業診断士的な目線👀笑)

自動車メーカーも厳しい

価格転嫁の原資を吐き出すのは、今の政府の考え方では一旦は自動車メーカーと言う事になるでしょう。

下請階層が積み上がっているこの業界では、下層から上層にかけて値上が行われて最終的に頂点である自動車メーカーに行き着く事になります。

もちろん、それだけでは自動車メーカーの収益悪化と言う事にしかなりませんから自動車メーカーとしては株主価値向上を図らねばなりません。

場合によっては収益を向上させる為に最終的には自動車の販売価格を上げざるを得ないでしょう。

一連の価格転嫁の動きが、自動車等の最終製品の販売向上に繋がれば良いサイクルが回り出す可能性もあります。

自動車メーカーが実際に販売価格の見直しを行うかはもう少し様子見になるとは思いますし、自動車メーカーも「価格転嫁を行なったから消費者の皆さんに価格転嫁します」、とは言わないので実際に行われているかどうかを見極めるのも難しいとは思います。

当面は自動車メーカーの内部留保を吐き出す形での価格転嫁は進むと思われます。ですが、この動きは今まで自動車メーカーに偏っていた利益をサプライチャーンに分配をしたに過ぎない、と言う見方もあります。

全体としての富が増えていない中で分配方法を見直しただけであれば課題は残ります。

現に、足元では日系自動車メーカーは苦戦をしてます。中国市場ではEV化が進んでおり日系メーカーの販売は伸びてません。

今後、世界的にEV化がどのように進んで行くかは不透明な状況ではありますが、EV化が後退する事はなく遅々としても進んで行くと思われます。

昨今の海外市場においてEV車の売り負けている状況が、今後ボディーブローのように日系メーカーに効いてくる可能性は十分に考えられます。

ポスト系列取引、脱ピラミッド構造

官製主導の限界

前項でも述べましたが、政府主導による価格転嫁の動きが昨今では盛んになっております。それはそれで意味はあると思います。が、ある意味限界があると感じています。

過去、様々な形の官製主導による産業の活性化政策がありました。半導体、原発、鉄道、インフラ等。

自動車業界で言えば、今回の価格転嫁の動きは国内事情が要因の大半を占めていると思います。
海外の取引先にとって見ればこの動きを日本国内事情と同様に受け入れる理由はありません。単純なコストの悪化と認識されます。つまりは、官製主導の影響は国内取引に限られ海外取引への効果は限定的でしょう。

自動車業界は日本のどの産業よりもグローバル化が進んでいる業界の一つだと思います。
国内の業界団体が政府の意向を受け入れて価格転嫁の動きは進むかと思いますが、海外の取引企業がこの動きに準じるかは別の話です。

ここに官製主導の価格転嫁の限界があります。

どこで付加価値を付けて行くか

長年のピラミッド構造下のサプライチェーンの中で、サプライヤーの各機能はそのサプライチェーンの中で最適化されてきたと書きました。

サプライチェーンの中で機能が重複しているサプライヤーがあればその分コストが掛かる事になります。

その結果、自動車業界では図面は自動車メーカーが書く、部品の大元になる材料や部品の半製品等は部品サプライヤーに支給する等の役割分担が進んできました。

一般的に製造業は、図面作成→原材料、資材調達→製造加工→出荷と言う流れがあり、ここに営業機能や品質管理機能があって会社が成立しています。

この観点で言うと、

図面は自動車メーカーが書く→開発機能
原材料・資材は支給される→調達機能
営業機能→新規顧客やマーケティング機能はピラミッド構造の中では不要
品質管理→自動車メーカーの要請に従う

となってしまいます。

つまりは、開発機能、調達機能、営業機能、品質管理などの製造業として必要不可欠な機能を他に依存しそのような機能を持たないサプライヤーがピラミッド構造下では多く存在してしまっているのが事実だと思います。

自社で行うべき機能を他に依存すると言うことは付加価値を付ける機会が少ないと言う事になります。

この部分を改善していかなくては今後、ますます薄まっていくであろう系列取引やピラミッド構造下での取引の中で生き残っていくのは難しいだろうと考えています。

まとめ(その2)

ここまでお読み頂きありがとうございました。

ここまでは、今、日本の各産業で行われている価格転嫁の動きやその先に起こる事について予測も併せて書いてみました。

次回、その3では、今、置かれている状況を踏まえて自動車業界のサプライチェーンの今後のあるべき姿について書きたいと思います。

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