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日産自動車への勧告に見る自動車業界と今後について(その1)

こんにちは、あんパパです。

今回は、私が従事している自動車業界について業界のいち社員としての立場と中小企業診断士の立場からの両面から書いてみたいと思います。

この記事を読んでいただく事で、今、自動車業界のサプライチェーンで起きている事や今後の動向に興味を持って頂ければ幸いだと思っております。


自動車業界の体質は古い

自動車業界の商習慣とモラル

先日、日産自動車に関して下請業者に対して同意なく納入代金を引き下げていたとして公取委から勧告を受けるという記事がありました。

個人的には「未だにこんな事をやっているのか…あの大企業の日産自動車が…」と言うのが感想ですが、数年に一度は自動車メーカーがこう言った記事で世間を賑わすのは、私がこの業界で働き出した20年前から変わっていません。

記事から類推するに、下請業者の了解を得ずに割引率に応じて納入代金を減額していたとの事なので、極端に言えば見積書も無い中で勝手に値段を決めて値引きさせていたと言う下請法違反のお手本のような事をやっていた事になります。

そう言った意味では、自動車業界は電気自動車だ、自動運転だ、CASEだと製品の面では新しい技術や自動車の未来の事を言ってますが、商習慣やビジネスコンプライアンスと言った面では非常に古い体質だと言わざる得ないでしょう。

なぜ、古い体質が残り続けているのか?

自動車業界は系列取引などの考え方が強く残っている、所謂、ピラミッド構造が長年続いてきました。

自動車部品や材料はその採用されているモデルが販売されている間、販売が終了しても市場に一定量の台数が走行している間は補用部品(修理用、メンテナンス用など)としてのニーズが残ります。その為、取引は長期的なものが前提となります。

開発時点から考えると非常に長い取引となる為、自動車メーカーやティア1と呼ばれる自動車部品メーカーは倒産リスクや供給実績等を加味して取引先を決定する為、なかなか自動車業界において新規参入メーカーが採用されにくい構図があります。

逆に一度採用されるとモデルの販売動向に左右されるとは言え、ある期間における一定量の仕事は確保されます。
その為、自動車部品メーカーは開発段階から自社の部品が採用されるように受注活動を頑張ります。

自動車メーカーにもメリットがあります。開発段階から実際の量産への移行、部品の受発注や検収、品質管理など、新規のメーカーであれば1からシステムを構築する必要がありますが、長年の取引がある取引先であれば痒い所に手が届く対応をしてもらえる為、手間やコストが掛かりません。

こうして、系列取引やピラミッド構造と言われる自動車業界の商習慣はお互いのニーズに合わせてより強固なものとなって行きました。

ある意味で新陳代謝が少なく同じプレーヤーに支えられてきた業界である為、確固としたヒエラルキーの下に古い商習慣が残ってしまっていると考えられます。

系列取引やピラミッド構造の功罪

この話題に入る前に現状を申し上げておくと、現在は系列取引やピラミッド構造は薄まる方向に動いていると思われます。

自動車メーカーは取引先である部品メーカーの株式を持つ事で資本参加したり、人材を派遣したりしながら系列取引を強化してきました。

その観点から見れば、現在はトヨタ自動車やホンダは系列の部品メーカーの株式を売却や譲渡によって手放す傾向にあり、系列取引の解消に動いている感があります。

100年に一度の大変革と言われている自動車業界を取り巻く昨今の状況は、系列取引の「罪」の部分が大きく出てしまっているのかもしれません。

系列取引のメリット

系列取引が日本の自動車業界の競争力の源泉になっていたの事実だと思います。

まだまだインテグラル型の設計思想が多い自動車において長年取引を行ってきた系列内の部品メーカーと開発段階から量産を見据えた設計ができるメリットは計り知れない効率の向上とコスト低減をもたらしていたと思います。

量産に移行後も、自動車メーカーのQCDに関する管理手法を受け入れてくれる部品メーカーとの関係は管理コストの低減に繋がっていた事は間違いありません。

よく言われているトヨタ生産方式が自動車業界に広く普及した一因も系列取引や強固なピラミッド構造の賜物だと思います。

長期の取引関係と上流から下流までの長いサプライチェーン構造の中で、経済合理性に沿ったサプライチェーンの最適化も図られてきました。つまりはサプライチェーンの中で個々のサプライヤーが自社の果たすべき機能に特化し、無駄な機能を排除して全体最適化を図ってきました。

自動車メーカーを頂点としたピラミッド構造下におけるサプライチェーンの発展は間違いなく日本の自動車産業の競争力向上に貢献してきたと思います。

開発段階における協力体制、量産時の部品供給体制、モデル末期から販売終了時における補用部品の供給体制などサプライチェーンの参加者全員が同じ方向を見ているからこそ出来た体制であったと思います。

ですが、100年に一度と言われる自動車業界の大変革下においてこの協業体制の負の部分が顕在化をしてきました。次項では「罪」の部分について書きたいと思います。

系列取引のデメリット

前項でも述べましたが、昨今では自動車メーカー各社が系列部品メーカーの株式売却等を通じて系列取引の見直しを進めています。

この流れは現在の自動車業界を取り巻く環境変化に起因しています。

大きな要因の一つはCASEと言われている次世代自動車開発に関わる大きな変化があります。これは次世代の自動車開発が今までの自動車開発の延長線上にあるのではなく破壊的なイノベーションの先にある事を意味していると考えられます。

その大きな変化点の一例が自動車のEV化です。自動車の外観は大きく変わりませんがその心臓部に当たるエンジンやパワートレインが大きく変化していきます。

今まで自動車メーカーは心臓部であるエンジンやトランスミッションを自社で開発する事で自動車メーカーとしてピラミッド構造の頂点に君臨してきました。しかし、EV化の加速を受けて既存自動車メーカーのアイデンティティが崩れ始めました。

テスラやBYDが良い例だと思いますが、エンジンやパワートレインのノウハウを持たない企業でも自動車のEV化で自動車メーカーとして新規参入のハードルが下がりました。

更に言えば、このEV化の流れの中で自動車メーカーにおけるこのエンジンやパワートレイン系のサプライチェーンが重荷なりつつあります。長い年月で構築したサプライチェーンですがこの大きな変化の下では小回り効かず変化に対応出来ない状況になりつつあります。

その他、自動運転やインターネットとの結合など次世代自動車開発には新たな技術が必要となってきていますが、自動車メーカーが持つ既存のサプライチェーンでこれらのイノベーションに対応出来るサプライヤーは限られている為、系列を超えた新たなサプライヤー開拓を迫られています。
つまりは、インターネット技術やソフトウェア技術を持つサプライヤーとの取引や深化が急務になっています。
結果、既存のサプライチェーンを維持する所にまで経営資源が回らず、既存サプライチェーンの見直す動きが出ている状況が足元の状況と言えると思います。

一言で言えば、足元の大きな変化に対応できない現状が系列取引の「罪」と言える部分だと思います。ですが、長年、自動車メーカー主導で構築されてきたサプライチェーンのサプライヤー個々に自律的に状況の変化への対応を求める事自体が酷な話なのかもしれません。

まとめ(その1)

ここまでお読み頂きありがとうございました。

ここまでは、自動車メーカーの古い体質やその体質が残ってきた原因、系列取引の功罪等について書いてみました。

次回、その2では、今、置かれている自動車業界のサプライチェーンの状況と私が考えるあるべき姿について書きたいと思います。

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