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日産自動車への勧告に見る自動車業界と今後について(その3)

こんにちは、あんパパです。

今回も前記事に引続き、「日産自動車への勧告に見る自動車業界と今後について(その3)」として、私が従事する自動車業界について、中小企業診断士見習的な目線といち社員としての目線から書いて行きたいと思います。

今回の記事(その3)で、このトピックに関する記事は最後にしたいと思います。その1、その2と色々書いてきましたが、その3が私が一番書きたかった内容になります。

その1、その2をまだお読みになっていない方は一読いただけると幸いです。


自動車業界の動向

次世代自動車の開発

まず、自動車(製品)自体が今後どうなっていくのか?と言う点です。

CASEと言う言葉が使われ始めてから久しいですが、このワードは今後の自動車の方向性を示してます。

C: Connected インターネット環境との結合
A: Automated 自動運転
S: Shared シェアエコノミーへの対応
E: Electric 電動化

この分野での技術革新が今後の自動車分野では進んでいくと言われてます。
各自動車メーカーはこれらの技術革新に対応していく必要があり、自動車業界では100年に一度の変革期と言われている所以でもあります。

自動車業界内の再定義が進む

これまで自動車メーカーはエンジン、トランスミッションといったパワートレイン関連やボディやシャシーなどの自動車の骨格を構成する部品を開発することで自動車一台の開発を行ってきました。

これがある意味で自動車メーカーの役割でありピラミッド構造の頂点に位置付けされる所以だったと思います。

ですが、前項で述べたように次世代自動車はCASEへの対応が必要になると各自動車メーカーは単独での対応は経営資源やノウハウの面から困難になっていくのは明白です。

例えばですが、Conectedの分野で言えばIT技術が主流になってくると思いますが、自動車メーカーはITのノウハウを持っている訳ではありませんのでIT技術を持つ会社との提携や買収などを通じて技術を手に入れていくしかありません。

また、Electricの分野では電動モーターやバッテリー、インバーター技術などが必要になってきますがこれらの技術に長けているのは電気機器メーカーや重電メーカーになります。これらの技術も自動車メーカーが従来持っているものではないので電機メーカーとの提携等を進めていく必要が出てきます。

「自動車=自動車メーカーが生産する」と言う概念が変わってくる、今後は自動車メーカーの定義が再定義されていくと考えられます。

自動車の概念の変化

前項でも述べましたが次世代自動車はCASEへの対応が求められます。その中では今までの自動車に関するあらゆる概念も変化していく事が予想されます。

若者の自動車離れが言われて久しいですが、これは社会環境の変化と無縁ではありません。

ライフスタイルの変化、社会の変化、雇用の変化、価値観の変化などが積み重なった結果、自動車に関する概念が変化しつつあります。

一昔前は、冷蔵庫や洗濯機と同様に自動車は一家に一台はどこの家庭にもだいたいある存在でした。しかし今は必ずしもそういった状況ではなく、必要な時に借りて使用する存在にもなりつつあります。

また電気自動車は家庭で使用する電気を賄う存在にもなってきました。

自動運転技術が進むと、バスやタクシーは運転手が居て運転手による運転で運行されるものではなくなり、もっと細かなサービスで楽に自動的に目的地に連れて行ってくれる存在になるかもしれません。

この先は運転免許証も不要になって、当たり前のように付いているハンドルも無くなり、運転手を必要としない乗り物に変化して行くでしょう。

こうなってくると最早、今の自動車の延長線上で自動車業界を語ることは無意味な事になってくるのではないでしょうか?

サプライチェーンへの影響

進むコモディティ化

まず、CASEにおける自動車開発で言われている事、特に電気自動車の分野では顕著だと思いますが、部品のコモディティ化が進むと言われています。

現在の自動車でもコモディティ化は進んできてます。車種間のプラットフォームの共通化やエンジン、パワートレインのコモディティ化は進んでます。

ただ、現行のコモディティ化は自動車メーカー内におけるコモディティ化であり、コモディティ間のインターフェイスが広く一般の公開されて誰でも参入出来るようなモノではありません。

但し、CASEが進むとEV車やConnectの世界では何らかの規格に基づいた開発が必要になり1社単独での独自開発は困難になります。(これを単独でやると日本車はガラパゴス化が進むでしょう)

かつてのPCがそうであったようにEV系の部品はコモディティ化の結果、参入障壁が低くなり世界各国の電気部品メーカーが色々な部品で自動車業界に参入してくる事が予測されます。

規模の経済の拡大

もう一つ考えられるのが規模の経済の拡大です。
コモディティ化と併せた変化だと思いますが、部品のODM化も進むと考えられます。
というか、既に始まっている感じです。

一部の部品やコンポーネントは劇的にコモディティ化が進み、価格競争に勝ち抜くために部品の標準化と共通化を進めた上で数箇所の拠点で生産して全世界に供給する体制が構築されていく可能性があります。

ポイントはこの体制を自動車メーカーが築くのか、電機メーカーが築くのか、全くの第3者が築いていくのか?誰が主導して築くのかで、その後の自動車業界の覇権を誰が握っていくのかに繋がっていく可能性があると考えます。

日本の自動車業界がとるべき行動

ここからは、今まで述べてきた自動車業界を巡る大変革の中で日本の自動車業界に属するサプライチェーンが次の10年でどのような施策を採るべきか、私の考えを述べたいと思います。

コモディティ化への対応

まず、日本の自動車サプライチェーンの強みを活かす必要があります。

コモディティ化が進むと一般的には価格の下落が進んだり差別化が困難になると言われてます。前項でコモディティ化はより進むと書きましたが、一方で、かつてのPCで起こったような規模感ではないと思ってます。

自動車はやはり安全が最優先されます。各国の法令でも自動車に対しては様々な安全に関する法令が義務付けられており、この点は次世代の自動車が開発されても変わらない点であると思います。

この安全に関するノウハウもまた自動車分野への参入障壁の一つであったのは間違いありません。
既存の自動車メーカーや部品メーカーは今までの開発や生産で培ったノウハウを持っており、これを活用する事がまずは求められる点です。

もう一点。
CASEにおける自動車開発では大きな変化もありますが、フレームや骨格といった自動車のボディといった分野は比較的既存の技術の延長線上にあると考えられます。

例えば重量物であるバッテリー等を搭載する事で自動車の重量がアップして燃費の悪化なども懸念されます。ここでも日本の部品メーカーが今まで培ってきた軽量化技術が活かせる可能性があります。

また、高難度の成形・加工技術を持つ部品メーカーは部品の一体化による部品点数の削減や、アッセンブリー工程の削減などによるコスト削減など製造コストの膨れ上がったEV車のコスト低減に貢献できるはずです。

次世代自動車開発の中でコモディティ化や異業種からの参入が活発になる分野と比較的既存の技術の延長線上で推移する分野が分かれてくると予測してます。

まずはそこを見極めた上で、部品メーカーが培ってきた技術や強みを活かせる分野を絞っていく事がコモディティ化の波に巻き込まれない為の第一歩と考えます。

エンジンはすぐには無くならない

EV車の台数が伸びていく中ではありますがエンジンを積んだ自動車がすぐに無くなる事はありません。長期的な方向はEV化ですが短期・中期の目線ではまだまだエンジンやハイブリッド車は残ります。

一方でEV化に舵を切った部品メーカーの市場からの撤退が始まる事が予想されます。
まだ自動車メーカー各社は自国の方針等もありエンジン車の生産終了タイミングを決めかねているようで二転三転している感もあります。

この分野はPPM的には負け犬分化と思いますが、一方で残存者利益も十分に得られる分野だと思います。

経営資源の配分に気を付けつつも一気にこの市場から撤退するのは、今まで培った経営資源的な観点からも少し様子を見た方が良いとい思われます。

自主自立

これが一番私が言いたかった点になります。

これまでのサプライチェーンの中で、部品メーカー各社はサプライチェーンの中において最適化を求めてられてきました。

結果として製造業にも関わらず図面が書けない、外部よりの購入品の納期管理や品質管理のできない、一種、世界的に見ると特異な中小の部品メーカーがたくさんできました。

これからの自動車業界内でのサプライチェーンではある程度の機能を備えた規模を求められると考えてます。

どんなに特殊な加工技術を持っていても図面が書けない、材料の調達が出来ないという状態では既存のサプライチェーンの中では受注が出来ても、新規、特に海外に関係する取引での受注は困難となり、結果として特殊な加工技術という強みを活かせない可能性もあります。

M&Aや事業譲渡、技術提携、資本提携など方法はいくつもあると思います。
また、規模を追求する相手は必ずしも自動車業界、製造業に属する必要はないと思います。

システム化、コンポーネント化が進む中で、システム開発機能を持つプレス板金メーカーがあっても良いですし、逆にIT企業が製造部門や会社を持つ事も今後は出てくると思います。

今後は既存のサプライチェーンの中で役割分担に合わせた機能の分割や最適化から、他社との協業や提携を進めてある複合的な機能を有した一定規模の企業になり、経営資源を備える必要がある。と考えます。

まとめにかえて

現在、自動車業界は100年に一度の大変革期だと言われてます。

そんな中、私の自動車業界での経験や診断士的な目線から今と今後の自動車業界について、日産自動車の公取委からの勧告をきっかけに自分なりの考えを徒然なるままに書いてみました。

私は自身の経験の中で、国内の自動車業界やその他製造業に属する中小企業には素晴らしい会社がたくさんあると考えてます。
仕事を通じてものづくりに関する様々な素晴らしい技術や強みをもつ中小企業をいくつも見てきました。

ただ、一方でそれらの会社がその技術や強みを最大限に活かして企業活動を行えているかと言えば必ずしもそんな企業ばかりではないと感じています。

多くは、大手の取引先への依存度の高さやその体質から既存のサプライチェーンの中での活動に限られていると思っています。

今まではそれでも良かったのかもしれません。比較的ではありますが日系企業はまだ過去の取引実績などを尊重し取引継続に関しては寛容であったのも事実です。

他方、日本は少子高齢化も進み、自動車の販売市場もシュリンクして行きます。地産地消の観点から言えば自動車の主戦場は更に海外に移行するものと思われます。
当然ながら自動車業界にいる限り海外企業との関係も出てくると思います。そうなった際に今までのビジネスモデルが通用するかはかなり不明瞭です。

国内の中小自動車部品メーカーは相互に各々の機能を補完し合うだけではなく、異業種の企業とも連携して機能面で次世代自動車時代に備え、併せて一定の企業規模になる事で既存のサプライチェーンから新たな展開を図れる経営資源を獲得し、顧客との価格交渉力、原材料の購買力、製品の品質管理能力、開発力等々、本来製造メーカーが備えている能力を更に高めていくべきだと思います。

今のコスト低減に舵を取りすぎたサプライチェーンの中では消耗戦になるのは明らかです。100年に一度の変革期の中では新たな付加価値向上を追求する体制の構築は必須です。

色々と述べました。

ただ日本の自動車業界、サプライチェーンを支える多くの中小自動車部品メーカーがまずは元気になっていく事が次世代自動車でも日本のものづくりが世界に勝っていく大きな要素であるとここに強調させて頂いてこのシリーズを終わりにしたいと思います。

最後まで拙い文章にお付き合い頂きありがとうございました。

あんパパ












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