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the chef cooks me『Feeling』、デジタルとアナログのあいだ。

遡ること1年前、the chef cooks meのニューアルバム『Feeling』が校了を迎えようとしていた。

それからまもなくしてnoteを書いてみたけれど、いろいろと考えあぐねているうちに随分時間が経ってしまった。その間に世の中もがらりと変わり、新曲のTシャツをデザインする機会をいただいたこともあり、公開することにした。

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2019年10月某日
the chef cooks me『Feeling』をデザインさせてもらった。初回仕様(左)はピクチャレーベルのみ、特設サイトにシリアル番号を入れれば、歌詞やその他のコンテンツが閲覧できる仕様だ。

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サブスクリプションが台頭してCDが売れないと叫ばれて久しいけれど、デザイナーが考えるべきはこの時代にこそCDを出す理由づけ、必要性(もしくは不必要性)だと思う。
わたしは手にとって触れられるものを愛する。デザインや印刷に惹かれてCDを買うこともよくあるけれど、それは少数派だと思う。

『Feeling』はどんなものがいいか……。
レコード屋で頭をひねっていると、前に、CDの盤面本体の画像がアートワークになっているものをApple musicで見かけて、妙な感覚に陥ったことがあるのを思い出した。フィジカルリリースしているCDの盤面を、配信サービスのサムネイルとして見た時に、いま聴いている音楽データはCDの形状をなす一面もあるということにハッとさせられた。

もはやCDではなくなったものに、CDの画像を充てがう。レコードプレイヤーの形を模したCDプレイヤーのような、使い捨てカメラ型のスマホケースのような。

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サブスク前提のような感じになってしまったけれど、どこかでジャケ写を目にして、現物を確かめたくなる感覚っていいなと思った。


そして、紙ブックレットをなくして写真を刷った盤面(ピクチャレーベル)をジャケットにすることが決まった。

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(写真:tetsuya yamakawa


盤面印刷のインクは透過性で、写真の下に白色(白版)を敷かないと写真がくっきりと印刷されず、盤面の銀色が透けてしまう。その透過性と、光が反射する盤面の特性を生かして、写真の一部だけ白版を敷かない、インクの向こうが透けて光る円盤をつくろうと思った。
きれいな半透明になるのかうまく予想がたてられなくて、3パターンも校正を出してもらった。

そのうちのひとつ、狙い通りになったもの。

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盤面を傾けると、写真が薄い膜のように光を覆っているのがわかる。
線状に輝く七色と写真の融合にとても感動して、しばらくぼーっ眺めた。

この美しさは手にとって見ないとわからないんだけれど、そこにこそアナログの価値があるんだと思う。


最終的にデジタルブックレットも単なる文字の羅列ではなく、1曲ずつ異なる配置でデザインした歌詞を、写真と共に見れる仕様になった。
インタビューで、simoryoさんがこんなことを語っていた。

――デジタルサイトはCDがないと見れないんですよね?
「そうです。デジタルサイトは歌詞と照らし合わせながら楽曲が見えるので、より自分のものにしてもらえるかなと。Apple MusicやSpotifyも歌詞が出てくるけど、寂しいフォントでバーって出てくるの、僕はちょっと納得いかなくて。ちゃんとデザインされたフォントで歌詞が見られて、クレジットでは関わってくれた人のSNSやHPに飛べる。このアルバムを媒介にしてリンクしてほしいというか、自分で広げていってほしい。たとえばYeYeちゃんの声が良いなと思ったら聴いてみるとか、そういう導線を作りたい。それはブックレットではできないことなので」
(出典:ぴあ関西版WEB「the chef cooks meインタビュー」)


デジタルだからこそできる、アナログのつながりを感じてほしい。
そしてわたしはこんな風に意味がある「もの」の作り方をつづけたい。


前例のないことを実現までこぎつけてくださったsimoryoさん、そしてスタッフの方々に感謝です。


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今年の3月からはじまる予定だった、「the chef cooks me Tour 2020 “Feeling”」は全日程中止になってしまった。開催を楽しみに待ちます。


長いのに読んでくれてありがとうございます。