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第16回世界バレエフェスティバル0813

主催者もよく決断した。ダンサーもよく来日した。チケットを購入した時点では夢を買うつもりだった。実施されることは期待していなかった。だから初日の幕が上がり、その場にいたことはうれしく思う。生の舞台は最高だ。

でも、手放しに褒めて終わるわけにはいかない。

出演は13組。前回は20組だったことを考えると明らかに少ない(もちろん来日したダンサーには頭が下がる)。コロナの中での開催なので、よく集まったとは言えるけれど、少ないのは事実だ。日本人ダンサーが3人。世界の名だたるバレエ団で活躍するとはいえ「地の利」を活かした参加であることは事実だ。

しかも13組のうち男性ソロが2つ、女性ソロが1つ。男性ソロの1つはパートナーが見つからなかった(あるいはグランを踊る体力がなかったと推測するしかない)ダニール・シムキン。女性ソロは別の公演で来日していたスヴェトラーナ・ザハロワが、おそらく数合わせのために主催者から打診されての出演。ザハロワの「瀕死の白鳥」はともかく、シムキンの「白鳥の湖より第1幕のソロ」はひどい。バリエーションではない箇所だ。もちろん踊りとしては美しいけれど、いつものシムキンの踊りを期待していると、はっきり言ってがっかりする。このあとにバリエーションを踊ってもいいのでは?と思う。彼にとってAプロはリハーサルで、Bプロから本気を出すということなのか。Bプロは菅井円加と「グラン・パ・クラシック」の予定。なんだかなあ。

出演予定だったユーゴ・マルシャンが入国規制の影響を受け、Aプロに間に合わずBプロからの参加になった。それで一番影響を受けたのは一緒に踊るはずだったドロテ・ジルベール。急遽フリーデマン・フォーゲルと「オネーギンより第1幕のパ・ド・ドゥ」を踊ったが、最後の方で2人で転んでしまった。リフトの多い作品なので、タイミングが合わないと難しい。その練習時間が充分に取れたとは思えない。当初の予定の「グラン・パ・クラシック」ではダメだったのか。あるいは普段から一緒に踊っているオペラ座の男性ではダメだったのか。

オニール・八菜とマチアス・エイマンの「ゼンツァーノの花祭り」は開幕にふさわしい明るい踊り。ブルノンヴィルをオペラ座ダンサーが踊ると別の作品に見えた。アマンディーヌ・アルビッソンとマチュー・ガニオの「ジュエルズよりダイヤモンド」はきれいだけれど、バレエフェスで踊るには退屈な作品。

オリガ・スミルノワとウラジーミル・シクリャローフの「ロミオとジュリエット」は一緒に行った友人は絶賛していたが、シクリャローフは少しがさつ。若者らしいといえば若者らしいのだけれど。

第2部のトリを務めたのはエカテリーナ・クリサノワとキム・キミンの「海賊」。バレエフェスにふさわしくないゆったりとしてアダジオでもったいつけ、バリエーション、コーダでテンポアップ。キム・キミンは圧巻。3階から見ていても滞空時間が違った。今回の公演で最高に輝いていた。

第3部(つまり最後の最後)のトリはマリーヤ・アレクサンドロワとヴラディスラフ・ラントラートフの「ライモンダ」。てっきり第3幕のグランだと思ったら、夢の場かな?女性のバリエーションのみ有名な3幕のところ。ということで(当日配布された出演者・演目リストには「ライモンダ」とのみあるのだが)、肩透かしを食らった気分で、まったく盛り上がらずにフィナーレ。なぜこのペアがこの半端な作品でオオトリなのかわからん。

パリ・オペラ座、ロイヤルバレエ、ボリショイバレエ、マリインスキー劇場はいずれも先シーズンに公演をどうにか開催できた。だからそれらからのダンサーが多くバレエフェスに参加したのだと思う。それでも自粛期間などがあるため、初日にコンディションを整えるのは難しかっただろう。

菅井円加とアレクサンドル・トルーシュの「パーシスタント・パースウェイジョン」はノイマイヤーの作品で、きれいだけど、眠かった。長かった。そしてこのタイトル、どうにかならなかったの?金子扶生とワディム・ムンタギロフの「マノンより第1幕のグラン・パ・ド・ドゥ」はきれいだけど、さらさら。金子も急遽出演が決まった(Aプロのみ)。他の作品でも良かったのでは。

アレッサンドラ・フェリとマルセロ・ゴメスの「ル・パルク」は寝ました。すみません。ジル・ロマンの「スワン・ソング」は暗くてよく見えないし、プロジェクションマッピングなのかよくわからないが、演出自体は新しいものではなく、面白くなかった。

どの作品も惜しみない拍手を送り(バレエフェス恒例ともいえる「ブラボー」の掛け声は厳禁)、どの踊りもカーテンコールを2回するのはお行儀の良い観客のなせる技。でも出演者に甘すぎないか?

今回は主催者が「参加してくれるのならどの作品でも踊ってください」と打診したのではないかと思う。参加してくれるだけで万々歳、演目が重複したら調整するけれど、ほぼダンサーの希望が通ったのではないだろうか。コロナの影響でコンディションが万全でないかのかもしれない。だから無難な作品が多い(もし主催者が最初から出演者に演目を打診してこのプログラムだとしたら、ぼったくりである)。

主催者はもう少し演目の偏りを気にしてほしい。いわゆるクラシックのグランが「海賊」のみ。これはどうなのか?もちろん21世紀になって20年が過ぎて「何を今更クラシック」という意見もあるだろうけれど、いやあ、バレエフェスはバレエフェスでしょ。特に若手はクラシックをきびきびと踊ってほしい。テクニックと表現力に分けるつもりはないけれど、テクニックを見せつけるのが若手の役割ではなかろうか。

超絶技巧で見せつける作品がAプロは「海賊」のみ。「ドンキ」も「黒鳥」もない。これでは盛り上がらない。もちろん現在のコンディションではグランなんてとても踊れないダンサーばかりかもしれないけれど、だったらもっと主催者側が踊ってほしい作品を提案すべきではないか。AプロBプロどちらも「ジュエルズよりダイヤモンド」が踊られる予定だけれど、どちらも見にいくバレエファンからして2回みたい作品なのか。

繰り返しになるが、このような状況で来日してくれるダンサーには頭が下がる。想定外の対応を迫られる主催者にも頭が下がる。しかしだからといって主催者がダンサーの言いなりになったように思えるプログラムではダメだろう。

開幕に先立って主催者から挨拶があった。「薄氷を踏む思い」というのはまさにその通りだと思う。でもこの挨拶をした人、あまりに喋るのが下手で、かえって不安になる挨拶だった。場内アナウンスをした女性の方がよほどうまかった。主催者自らマイクを握る必要はないだろう。誰かうまい人が代読してもよかったのではないか。

第2部の冒頭にカルラ・フラッチとパトリック・デュポンの追悼があり、懐かしい写真や映像が流れた。デュポンのサービス精神旺盛の映像は圧巻。モニク・ルディエールとの「ドンキ」の映像をフルで上映すれば、盛り上がっただろう。そのくらい、盛り上がりに欠けた。

技術の進歩なのか、各踊りの背景がそれぞれ映し出されたのだが、歪んだ柱(シムキン)や、石畳のようなバルコニー(?)(ロミジュリ)、夕日の沈む海(海賊)、歪んだシャンデリア(ライモンダ)はいらなかったと思う。フィナーレ後の花火もいらない。ダンサーは後ろを向いてしまうし、会場の壁にちゃちな花火が照らされると、これまでの生の踊りの感動が半減する。新しい技術の導入で使いたいのかもしれないけれど、バレエフェスには合わない。

3年後はどうなるのか。その前に第16回バレエフェスが無事に最後まで公演できることを願う。


おまけ:プログラムの金子扶生のプロフィールで「2020年5月にプリンシパルに昇進」とあるが、これは2021年では?

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