あの頃、嘘みたいに静かだった京都の夜
京都芸術大学という大学の通信の学生になって2年以上が経ちました。
基本的にWEBや東京にあるキャンパスで授業を受けてしまうため、なかなか京都のキャンパスに行く機会がないのですが、来春は10日ほど京都に滞在して、大学での時間をふくめて、ゆっくり過ごしたいと計画中。
コロナ明けの世界中でオーバーツーリズムが叫ばれてますが、京都はコロナの前も、海外観光客で賑わい、たぶん2019年くらいに最高に混雑していたんではないかと思う。
コロナがまだ明けてない秋の夜、先斗町の静かなバーにふらりと立ち寄ったことがある。いつも道を譲りあうほど混雑する先斗町の路地に、私と親友しかいない夜だった。
店の奥のテーブル席で二人組の外国人(鎖国していた頃なので、日本に住んでいる外国人だと思われる)がビールを飲んでいるだけで、小さくレコードの曲が聴こえるだけの静かな店内だった。
私はカウンター席で、誠実そうなバーテンさんに「ロングカクテルで、京都の夜を感じられるものを」とオーダーした。
くぐもったレコードの音と、京都のジンを使ったジントニックに浮かぶ氷の音を楽しむ穏やかな時間。
途中、奥にいた外国人の客が「ビールがなんか変な味だから交換してくれ」と言ってきた。バーテンさんは念の為、ビールの味を確かめていたが、特に問題はない、通常のビールだった。
外国人の方々は交換のビールを貰っても「うーん…」と言って帰っていった。何が駄目だったか分からなくて、バーテンさんも私も親友も、少しの間、もやもやした。
そして店内は私と親友の貸し切りになった。
東京から来ていることを伝えると「では京都人には馴染みのない京都の曲を」と「My Favorite Things」をレコードでかけてくれた。
「そうだ京都、行こう。」のCMの曲。考えたことなかったけど、あのCMは京都では流れていないのだ。更にいうと、その秋はCMを見かけなった。そんな年。
まだまだコロナの夜明けが見えない時期だったので、みんながこれからの日本経済を心配していたあの頃。
京都は、賑わいでいえば少し寂しい夜でもあったが、穏やかな夜でもあった。
バーテンさんが「ちなみに当店、コロナ前はお店に海外のお客さんがどんどん増えてあふれてしまって、レコードを交換する余裕すらなく私はひたすらビール注ぐマシーンみたいになってました」と笑っていた。
たぶん彼は、この夏もビールを注ぐマシーンになっていることだろう。
オーバーツーリズムを嘆きたいとかそういう意図はなく、ただただ、あの頃の穏やかな時間、良かったな、とシンプルに思う。
桃源郷みたいなバーを後にした私たちは、心地良い秋の夜風に吹かれながら、京都の街を散歩して帰った。もうすぐあれから何度目かの秋がくる。
今年はどんな秋になるかしら。
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