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2021年3月17日(水)猫がうちの猫がっ

 朝、猫の顔を見たら口元に血が滲んでいた。
あ、歯が抜けた?
と猫を抱っこして口を開ける。
右上の犬歯が当たるあたりの、下の歯茎に血。
歯は抜けていないが、歯茎が腫れているようだ。
急いで獣医に連れて行く。
この頃、自分は体調が悪く心臓がバクバクする。
猫どうしようと焦ったらバクバクした。
これしきのことでバクってどうするよアタシ。
コロナで仕事が止まってお金も入って来ないし、よりによってこんな時に、、と思いながら、「よりによってこんな時」っていうのは無いのだよアタシ、とアタシに言い聞かせる。
 アタシはちょっと慌てて獣医さんに話す。
どうしよう猫が、うちの猫がっ、、って感じに聞こえたかな。
「猫ちゃん、ちょっとお預かりしますね」
猫は一晩お泊まりになった。
かつては血気盛んでもう一匹の猫とあわや流血、という喧嘩もしたが、もう年だし、筋肉もずいぶん落ちてハリもなくブヨブヨして、じっとしていることも多くなった。
「寿命」なのかな。
嫌な言葉だ。
そしてまた「よりによってこんな時に」と思う。
 猫を迎えに行く。
猫は私の顔を見て「にゃー」と鳴いた。
怖かったね。寂しかった?
「何も心配するようなところはありませんでしたよ」
口はたまたま犬歯が当たって切れただけだった。
歯茎も私の勘違いだったようで、腫れていなかった。
よかった、ああよかった。
 お会計を待っている間、キャリーバックを覗く。
私の顔を見て猫は「にゃー」と鳴いた。
元気そうだし、ブヨっていた体に張りがあるようにも感じられる。
なんだか若返ったようにさえ見えたし、キャリーバックが重たく感じる。
ほっとして私の気分も上がって来たのかな。
 お会計を済ませて外に出ると駐車場で、先に診察を終えたワンちゃんと猫ちゃんの飼い主さんが立ち話をしていた。
「えっ」ワンちゃんの飼い主が驚いたような大きな声を出した。
シッ、と口元に人差し指を当てて猫ちゃんの飼い主がチラリとこちらを見た。
二人は私に背中を向けてヒソヒソやっている。
「えーっ。本当にぃ」とヒソヒソ話にしては大きい声が聞こえた。
「本当よ。うちの猫なんかすごく若くなっちゃって。上れなかった棚にひょいって。うちだけじゃないのよ。お隣も、上の階のワンちゃんも。お宅のワンちゃんだって。家に帰ったらよく観察してみるといいわよ」
二人の話をモロ立ち聞きしたところによると、この動物病院にペットを預けるとみな若返って帰って来る、ということらしい。
まさか、、みんな私のように心配し過ぎて、何事もなかったのにホッとしてそんな風に感じるだけだよ。
家に向かう車を運転しながら、「人間はバカだよね」と猫に話しかけた。
信号が赤に変わった。
停車してキャリーバッグを覗くと、毛艶のいい引き締まった体の猫が鋭い眼でこちらを見ていた。


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