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寝る前のメモ。


「冬場がね、一番稼ぎどき。タクシーの運転と除雪の仕事があるからさ」

タクシーの運転手が、聞いてもいないことをどんどん話してくれる。

「先日は大阪から来た50代ぐらいの女性グループを乗せてたんだけどさ、今度はユーミンのライブの時に来るらしいよ。大阪の人は話してるだけで面白いね」
「昔は黒部のほうで働いていたんだけどさ、俺らは土方の服装だからトロッコ電車は顔パスだったんだよ。裏ルートっていってね、何度も遊びに行ったわけよ」

泊まり先へ向かうまでのなんでもない会話でさえ、こうして楽しく思えてくるのは、わたしが旅先に来ているからだと思う。


知らない人と出会い、なんでもない話をして、おいしいものを食べ、美しい風景を見ることが、わたしにとって「旅」の醍醐味。

電車が進むにつれて、車窓から広大な山々が見えてくると、もう、ため息をつかずにはいられなかった。雪山は、かつて訪れたアイスランドを彷彿とさせる。また、あの場所に戻りたい、という気持ちが自然と湧き出てくる。


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乗り換えの駅までに、ワンマン電車に乗っていた。

はじめての新潟、はじめての風景にワクワクするわたしをよそに、空いている席は、10代後半だろうか、お世辞にも垢抜けられていないギャルの向かいだった。はじめは、コーヒーを片手に風景を楽しんでいたのだけれど、どうしても彼女のことが気になってしまう。

それは、ミニスカートの下から可愛らしいパンツが見えていたからというわけでも、履きこなせていなさそうなヒールブーツからキャラクターソックスが出てきたからでもない。彼女の旅のおともが、ポカリとパイの実だったことや、昔でいうケータイ小説のような文庫本を読みはじめたことも惹きつけられた理由のひとつだろう。

そして、お客さんなのか彼氏なのかわからない、電話越しの男性に渾身の甘い声で話しかけながら(内容は割愛しますが)、寝そべるような姿勢になり、わたしにパンツを見せてくれるのでした。

彼女はこの格好でどこに行ってきたのか、そして、これからどこへ向かうのか。彼女がどのような過程でこの道を選んだのか、なにを表現しようとしているのか、そして、その根底にあるものを、わたしには想像することしかできないけれど、田舎出身のおばちゃんのような視線を向けてしまうことに、歳の経過を感じながら、気がつけば終着駅に到着していたのでした。


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何の話かわからないけれど、わたしの旅の記憶です。

(憧れだった、とてもステキな宿に来ています)

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