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風景をつくる人をつくる風景。


自然、建築、標識、看板、信号、公園、路上、そして、道ゆく人々 --。

はじめてのまちを巡るとき、意識的に、あるいは無意識のうちに、この辺りについてをよく観察するようになった。その場に身を投じたときに、感覚的に惹かれるものごとが、私自身が「いい」と感じる風景だから。

何を基準にして「いい」と感じるか、その比較対象はいつだって地元。いや、正確にはいつの間にか地元になっていた。もっとこんな風景が見れたら、こんな日常を目にしたら、私たちはもう少し地元のことを好きになれるのかもしれない、と。それは単なるハードやインフラについての憧れではなく、興味や視点が生まれ・育まれる風景を見つけたからだと思う。

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JR京都駅から快速電車でおおよそ20分。京都市の西側に位置する「亀岡市」が私の地元。有名な観光地「嵐山」からトロッコ電車で渓谷を抜けると現れる、なだらかな山々に囲まれた盆地。晩秋から春先にかけて霧が立ち込み、標高の高いところからは「雲海」として楽しむことができる。(雲海よりも下で暮らしている私たちにとっては、洗濯が乾かないので厄介もの)

京都市内へのアクセスや日常生活を考えると車があれば不自由なく暮らせる一方で、エンターテイメントが少ないので“何もない”とも言える。ベッドタウンとして開発され、国道沿いには住宅街とチェーン店が並ぶ。このまちにも1300年の歴史があることは、おそらくほとんど知られていない。

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はじめての外国は、高校の修学旅行で訪れたシンガポールだった。約721.5㎢の国土におおよそ564万人が暮らしている。亀岡市の面積が224.8k㎡であることを考えるとその小ささがわかるし、京都府内に256万人が暮らしていることを考えると(京都府の面積は4612.2k㎡)、人口密度の高さがわかる。

まちの至るところが工事中で、高層ビルの上にクレーンが乗っている風景に衝撃を受けた。一方で、路上にある屋台では、食パンにアイスクリームを挟んだローカルフードを売っていた。そのコントラストがおもしろかったのを覚えている。チャイナタウンやリトルインディアと呼ばれるエリアがあり、多様な人たちが暮らしていて、公用語が英語であることも当時は驚いたかな。

(私は事前のリサーチで、なぜかシンガポールにある日本語の「言いまつがい」や日本メーカーの類似商品を調べていた)

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ベトナム、カンボジア、トルコ、韓国、イギリス、スペイン、ドイツ、台湾、タイ、フィンランド、オランダ・・・その後もさまざまな国を訪れるなかで、史跡巡りや観光アクティビティに止まらず、市場や商店街、公園、スーパーマーケット、祭り、あるいは民家など、とにかくまち並みや人々の暮らしを観察し、地元の方と他愛もない話をした。

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トルコではすれ違った女性に何度か「一緒に写真を撮って!」と声をかけられる体験をしたし(笑)、韓国では誤って食べた唐辛子の辛さに涙を流することもあった。ミュンヘンでは、酔っ払いのお兄ちゃんに手を引かれながら朝のまちを巡り、川でサーフィンをしている人々を目撃。スペインでは、無料で配られていた黄桃を美味しくいただき、路上では不思議なベンチと出会った。

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そのなかで、いちばん心が踊ったのは、やっぱり「アイスランド」だと思う。

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圧倒的な大自然を目の当たりにし、美しさと畏怖の念で心がいっぱいになった。街中では、その自然から着想を得た建築物や看板のデザインを目にしたし、至るところにアート(あるいはグラフィティ)があり、工事中の歩行者通路ですら遊び心にあふれていた。

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なかでも驚いたのは、信号とスピードメーター。こんなサインと出会ったら思わずそうしたくなるよね、と。赤信号はハートになっていて、スピードメーターは規制の50kmを守るとにっこりマークに変わる。人を動かしたいと思うなら、禁止や処罰からではなく、やさしさとユーモアから。(運転中だったため当時のスケッチにて)

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この時、人の思考や行動に寄与することを仕事にしていきたいと強く感じたのだと思う。また、人々の感性や知的好奇心に触れるようなことをしたいとも。

地元においては、その辺りに大きな課題感を感じていたことに加え、誰かの感情をコントロールするのではなく、“思わずそうしたくなる” 状況をつくることに魅力を感じた。それはデザインの力で、あるいはプログラムをつくることで達成できるのではないか?と仮説を立て、まもなく5年の月日が経とうとしている。

(ちょうど2016年の3/1〜10に、卒業旅行で訪れたのがアイスランドでした。拙い文章ですが旅のログをとっていて、撮り溜めた写真を失ってしまった今、このマガジンだけが記憶の頼りです。笑)

まだまだできる規模感は小さいし、道半ばではありますが、2019年にスタートした「Harvest Journey Kameoka」や、先月開催していた「かめおか霧の芸術祭」で関わった企画展では、ようやくその片鱗が見えてきたのではないかと思います。

何気ない風景のなかで育まれる感性や知的好奇心。「風景をつくる人をつくる風景」のことをもっと深く理解し、ありたい形をやさしさとユーモアで表現しながら、その風景を描いていける人に。

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