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塩味と甘味 第3のリベロ Vol.2

1年前、出張で訪れた金沢の土産で忘れられないのは「すずめ」の塩豆大福だ。出雲の「荒木屋」で食したそば粉を使った善哉も、脇に添えられた塩昆布が効いて、10年が経過したいまも印象に残っている。塩味とは、絶妙に甘味を引き立てるものらしい。

宮藤官九郎と長瀬智也が組めば外れは無いと、改めて実感している。第5話まで放送された「俺の家の話」。ドラマの録画はためてしまいがちな私も、全話とも当日中に観ずにはいられなかった。能の人間国宝の家に産まれた主人公がプロレスラーを引退して数十年ぶりに実家へ戻り、宗家の跡継ぎとなる家族ドラマ。病と認知症を抱え介護が必要になった父親と、学習障がいを持つ息子との二代の父子を通して、シリアスなテーマも軽妙洒脱に描くクドカン節を満喫できる。主人公がプロレスラーになったのは、それが能では決して褒めてくれない父との唯一の共通言語であるためだった。初回、幼少期の主人公を膝枕に載せた西田敏行演じる父の「プロレスっていいな、反則しても血が流れても、節度があって」という台詞は、プロレスファンとしても胸に刺さった。

先ごろ、同窓の女性エッセイストが脚光を浴びていると知り、書店で買い求めたのは「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」。若くして亡くなったお父さん、病気の後遺症で車椅子に乗るお母さん、そして障がいのある弟さんのこと。ご家族との生活や思い出を中心に綴られた文は、軽妙で可笑しいのに、ほっこりさせてくれる温もりに満ちていいた。いろいろな苦難を明るく健気に乗り越えてきたからこそ、なせる業だろう。8歳も後輩の岸田奈美さんの本を読んで思い出したのは、クドカンのドラマ、そして塩豆大福や善哉の味わいだった。

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