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回顧2023 Footballがライフワーク Vol.36

念願のチャンピオンズリーグ初制覇を果たしたマンチェスター・シティから実感したのは、ラストピースの重要性だ。それは4シーズン前、プレミアリーグで覇を競ってきたライバルの優勝にも相通ずる。18-19シーズン、リバプールはイスタンブールの奇跡以来14年ぶりのビッグイヤーを掲げた。ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ、モハメド・サラーの3トップ、当時世界最高のセンターバックだったフィルジル・ファン・ダイクに加え、最後方にアリソン・ベッカーというラストピースがはまったことが、6度目の栄冠の決め手になった。サイドバックが中盤の組み立てにも参加し、センターフォワードは固定しない。ポジションの概念を覆す戦術の構築がペップ・グアルディオラ監督の魅力とはいえ、それでも届かなかった欧州制覇。シティにとってのラストピースは、最前線に君臨する当代一のストライカー、アーリング・ハーランドに違いなかった。

私がフットボールの虜になった年数は、そのままJリーグが積み重ねてきた歳月になる。10歳の小学4年生が、リーグ創設当時のジーコと同じ40歳になる期間が経過したのだから、良くも悪くも世界は変わる。森保一監督体制を継続した日本代表は平均的に大量得点を叩き出すようになり、リベンジを期したドイツにはアウェイで完勝を収めた。しかしながら、ドイツはいまやトルコにもオーストリアにも勝てなくなっていて、先ごろのワールドカップアジア二次予選はテレビでもネットでも視聴できなかった。わが国のフットボールの命運を託されてきた日本代表の真価はいまだ判然としないが、南米予選3連敗の不振にあえいでいるのがジーコの母国ブラジル。ドイツといい、世界をリードしてきた双璧ともいえる両国が心配になる日が来るとは、思ってもみなかった。

今季のJリーグでは、別れも相次いだ。7月には、アンドレス・イニエスタが神戸を退団。開幕したころ久方ぶりにNumberの表紙を飾ってくれたことに喜んでいたのだが、小野伸二は閉幕をもって引退した。リーグの歴史上、世界的ビッグネームも天才と称された日本人も何人か目にしてきたが、前者の一人がわがクラブに5年半も在籍してくれたのは望外で、全盛期の伸二が放つ輝きは後者のなかでも格別だった。別れの一方で、嬉しい返り咲きもあった。日本代表の参謀だった横内昭展監督を迎えた磐田がJ2を2位で自動昇格したのに続いて、プレーオフを制したのは東京ヴェルディ。「リーグ史上、最強クラブはどこか」という話題になればいつものように名前の上がる両雄が、相応しい地位へ戻ってくる。30年の節目を意識し続け、その永さも早さも噛み締めたような1年間。5月14日には翌日のリーグ生誕記念日にちなんで、RADWIMPSのオープニングアクトを交えたスペシャルマッチが開催された。その舞台となった国立競技場には、先月10年ぶりに訪れた。私にとって生活の一部であり、よすがでもあるJリーグに欠けていたラストピースがあったとすれば、わが神戸がいまだリーグ戦を制した経験が無いことだった。

神戸がJ1に復帰した2007年、補強の目玉はマジョルカから国内へ戻った大久保嘉人だった。その在籍最終年となった2012年は、2009年まで鹿島の3連覇に貢献した野沢拓也、田代有三、伊野波雅彦のほか、日本代表経験者の橋本英郎と高木和道も加えた大補強を実現、さらにシーズン途中から西野朗監督を招聘しながら、あえなく2度目のJ2降格。求められた役割が多過ぎたのか、6年間で50ゴールにとどまった大久保が川崎へ移籍した翌年から3年連続で得点王とは、こんな皮肉も無い。ネルシーニョ監督のもと2016年は当時最高の年間7位で終えるが、翌年は夏にルーカス・ポドルスキが加入するも振るわず、監督は途中解任。以後、イニエスタ獲得のビッグディールを機に"バルサ化"なるスローガンを掲げるが、いまもシティのベンチで構えるファン・マヌエル・リージョ政権は短命に終わり、指揮官の挿げ替えと選手の出入りが続いた。2020年元日の天皇杯で待望の初タイトルを獲得、2021年は年間3位になったとはいえ、方向性は一貫せず、安定や熟成には至らないままできた。

2004年に三木谷オーナーが就任して以来、神戸は戦力を高めることはあっても、実力のほうはいつまでも向上した印象に乏しかった。それこそは、国内屈指の点取り屋や名将がいても、日本代表級を揃えても、世界の大物まで迎え入れても、リーグ優勝に縁がなかった要因だろう。戦力と実力とは、似て非なるもの。相応の大枚をはたけば個人は集められるが、それが組織として機能するかは保証の限りではない。もっぱら、フットボールの難しさを伝える存在に甘んじてきた神戸が今年、ようやく歓喜をもたらしてくれた。主力の多くがキャリアの後半に差し掛かり、攻撃には時間も手数もかけない。第三者にしてみれば、わがクラブの姿は理想的とも魅力的とも言い難いだろう。しかし、イニエスタを外してでも、なりふり構わず結果にこだわる。その志を貫徹したことが、神戸が初めてのリーグ優勝を成し遂げる原動力になったのは間違いない。先日までメリケンパークは神戸の色に染め抜かれて、Jリーグが30年越しで組み合わせたピースの完成形を見る感慨に浸った。ただ、フットボールは今後も続いていく。神戸にJリーグに、日本代表に欧州に。フットボールの世界が織り成すパズルには最終形が無く、これからも目が離せない。

最後に、自選の年間ベストイレブンを記す。

GK:前川黛也
DF:菅原由勢
   ジョン・ストーンズ
   冨安健洋
   酒井高徳
MF:ロドリ
    ジュード・ベリンガム
    久保建英
    三笘薫
FW:アーリング・ハーランド
  大迫勇也

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