察してもらわないし察さないコミュニケーション
仕事帰り、月に2回ぐらい顔を出す飲み屋があるとしよう。
自宅から最寄り駅にある小ぢんまりとした、いつも常連さんでにぎわう店だ。
通いはじめてもう3、4年は経つだろうか。
自分も常連、というのはおこがましいかもしれない。
でもカウンターに座れば「角ハイメガでいい?」と、注文するより先に確認してもらえる。
ひとりで顔を出したって、そこにいる誰かしらの常連さんと他愛もない話ができるぐらいにはなじんでいると認識している。
そこで常連のおっちゃんに言われるわけだ。
「なんか今日、おしゃれじゃん?デート帰りか笑」と。
最後のひと言は余分なわけだけど、
「なんか今日、おしゃれじゃん」と言われて、あなたはどう感じるだろうか。
察するということ
友人Yはこう言う。
「今日おしゃれじゃん」って言われると、
いつもはおしゃれじゃないんだ…ってへこんじゃうんですよねえ
いつもだって、がんばってるんですよぅ
うわあ、大変だなあとわたしは思う。
だってその人はただ今日の服装を評価しているのであって、「いつもはおしゃれじゃないよね」とはひと言も言っていないのだから。
でも彼女がそう考えるのはわからんでもない。
彼女は察しの良い人だ。
顔色・声色・発言・お酒の進み具合などを鋭く観察して、相手の状況を察知する・先回りする力に長けている。
そして自分に自信がない。
だから「今日おしゃれじゃん」と言われた瞬間、(いつもはおしゃれじゃないってことか)と、クルッと思考がまわって翻訳できちゃうのだと思う。
そして言葉に出た部分を「」カギカッコとするなら、言葉に出ていない()カッコの部分に正しく気づくことを【察する】というのだろう。
この場合の彼女の【察し】は正解かどうかわたしにはわからないけれど。
察するのが下手だと
空気が読めない人や、冗談が通じない人になりうる。
わたしのように。
察しつづけると疲弊する
とはいっても、もはや無意識レベルで察していることもあると思う。
たとえば子どもの「おなか減った」は(ごはん食べたい)だろうから、急いで夕飯をつくるのかもしれない。
同じ部屋にいる夫が「暑い暑い」とこぼせば、(エアコンの温度を下げたい)だろうから、そっとエアコンの設定温度を下げてあげるかもしれない。
先輩に相談したいけれど、「無言」で(話しかけるな)のオーラを察したら、後にしようと思うだろう。
後にしたらしたで、「なんでもっと早く言わなかったんだ」と怒られるかもしれない。
「察する」がなんとも思わずにできるうちは、それでいい。
でも「なんでわたしばっかり」としんどくなってこない?
「ちゃんと言葉にしてくれ」と思わない?
わたしはときどき思うよ。
気遣いを強いられているように感じて、腹が立つ。
そうなったら、意識して先回りを休憩したほうがいい。
普通に考えればわかることなのでしょうか
今あげた3つの例を見て「いやいや、そこまで口に出さなくても普通にわかるでしょ」と思っただろうか。
たしかに近い間柄であればあるほど相手の考えが「なんとなくわかる」ようにもなるし、「ことばにしなくても伝わるだろう」と錯覚しがちだ。
ところがなんとなくわかったつもりで、本当はズレているかもしれない。そのズレが表面化したときに、「わかってると思ってた」「いや言われてないし」と、いやーな形で衝突する。
ちかしい間柄こそ、ていねいに言葉にしなくちゃ。
どんなにちかい人でも別々の人間で、
それぞれ「普通に考えて」生きているし、
「言わなくてもわかるでしょ」は相手に気遣いを強いる、気遣いの暴力にさえなりかねない。
わざと「」だけを受け取る
自分の()はできるだけ全部口にすると同時に、
人の()はできるだけ先回りしないで、発せられたことばだけを受け取る。
たとえ相手が家族であっても。
わたしはそう心がけている。
その日、そのとき、
自分の限られた気力の遣いどころを吟味したいから。
たまに察してもらえなくてへそを曲げている人を見かけるけど、自業自得だよね、と思う。
だって伝えてないんだもの。
そもそも、あなたから気遣ってもらったこと、ありませんけど?
気遣いのクレクレ星人にはかまっていられないのよ。
そこまで気づいているのに、いじわるだなあと自分でも思う。
それでも
文字通り「気が遣えねえな」と言われようが
空気が読めないと言われようが、
冗談が通じないといじられようが、
へそを曲げられようが、かまわない。
気遣いクレクレ星人に遣う気力を、わたしはあいにく持ち合わせていない。
それに言葉にしたほうが、結局間違いがすくないし、あとで面倒なことになりにくい。
一方の友人Yは、仕事ではその察し力を武器にして立ち振る舞っているらしい。
正解はないの。
その力を、どう使っていくか、使わないか。
今日もわたしに心を遣ってくれた方、
ありがとうございます。
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