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私はそれを手放せない『西洋菓子店プティ・フール/千早茜』

千早茜さんの著作を読んだのは今回の『西洋菓子店プティ・フール』が初だ。
直木賞受賞がきっかけで知った作家さんなのだが「しろがねの葉」は戦国末期の石見銀山という設定にあまりそそられなかった。

余談だが私は舞台設定なんかに興味がひかれないと、よっぽどお気に入りの作家さんではない限り手に取らないタイプなのである。だから幅が広がらないんだ!と言われればそれまでなのだが。
とはいえせっかく知った千早茜さんの作品をどれかは読んでみたいと思っていたのは確かで、たまたま図書館でバレンタインデーに合わせたお菓子が出てくる本というテーマで特設コーナーができていたところに『西洋菓子店プティ・フール』は並んでいた。
装丁と西洋菓子店という設定にそそられて借りて読んでみた。

フランスて菓子作りの修業をしたパティシエールの亜樹は、菓子職人の祖父のもと、下町の西洋菓子店「プティ・フール」で働く。女ともだち、恋人、仕事仲間、そして店の常連客たち……。店を訪れる人々が抱える様々な事情と、それぞれの変化を描く連作短編集。巻末にパティシエール・岩柳麻子さんとの対談を収録。解説・平松洋子

文春文庫HPより

洋菓子店は基本的に幸せな人が寄っていくものだと思う。ケーキやクッキーを買っていくその先と憂鬱な予定はなかなか結びつかないものではないか。ケーキの1ホール入った箱を抱える人はきっと今から祝い事があるのだろうし、クッキーやプチガトーを買っていく人は今から友だちや家族とティータイムなのかもしれない。
でもそうではない人もいるのだとこの本は教えてくれる。お菓子は嗜好品だ。いってしまえば生きるのに必ずしも必要ではない。故に欲望をぶつける対象となるのだ。破壊してしまってもいいものだから。シュークリームを大量に買っていって過食しては吐く専業主婦や、綺麗なケーキを手づかみで食べることで乱暴に自分を満たしていくネイリストの女の子。その他きらきらとした綺麗なお菓子を巡って避けられない人間の愚かさやどうしようもなさが描かれている。

でも、でも!
生きていくことに直接必要がなくても、これがあるから生き抜いていけるというものは誰にだってあるはず!私はそう思う。やりきれないこととかうんざりするようなことばかりが起こる。
そういうときこそ素敵なケーキやおもしろい小説で爆発してダメになりそうな欲望を昇華していくから人間ってどうにかやっていけるんではないのか。私はどうしてもそれらを手放せそうにないのだ。
スマートに生きられない、でもそんな自分を見捨てることもできない。そんないじらしい人間と甘いお菓子の話だった。人間の拙さがよくわかる、そんな本だ。
千早茜さんの著作は始めてだったけれど、この本はかなり好みの部類に入るので他の本も読んでみたい。


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