#30 さくらといぶきと、名前の変遷。
世界陸上が終わった。
……さすがに前回と始まり方が同じすぎる。
でも仕方ない、家にいて観られる競技は全部観たのだから。
やり投げ・北口榛花選手の金メダルはもうとんでもなくかっこいい大逆転で素晴らしかったし
日本勢の入賞も11で過去最多ということで、そのほとんどをリアルタイムで観られたのも嬉しかった。
やはりこういうアスリートたちを見て思うのは
負けず嫌いって凄いな、ということ。
もちろんアスリートに限らずだとは思うが
勝負に勝ちたいとか、負けて悔しいとか、誰かに負けたくないとかで必死になれるって凄い。
そういう強い気持ちがあるからこそ一流になれるのだろう。
私は負けず嫌いと真逆の性格なので
勝負ごとに対して感情が動くことがまるでなく
勝ったらわーい✌︎ だけど、負けたからといって悔しいとか燃えるとかの経験がない。
同期が勝ち上がってもがんばれー!と思うし、
自分が落ちても、落ちたな、というだけ。
もしかしたら今後、年を重ねて心情が変わっていくこともあるかもしれないが。
そんなこんなで
8月半ばにM-1の1回戦に出て敗退したのだが、
再エントリーという制度で9月8日にもう一度出ることになった。
思ってもないこと言って身の丈に合わない嘘のエンジンふかしても仕方ないので、
通ったら嬉しいなあ、でがんばる所存。
さて、今回は前回の続き。
私が独自に収集した上記の名前たちの
比較検証 第2弾だ。
前回の記事では
「彩華」の「あやかorいろは問題」や
「悠人」を「ゆうと」と読むか「はると」と読むかなどについて、
2003年と2019年の名前の変化を見てきた。
今日は、漢字をなんと読むかではなく
同じ読み方をどんな表記にするかという部分に
焦点を当てて、比較をしていこうと思う。
なお、これから行っていく比較では、
2003年度と2019年度で集めた名前の母数に差があることを念頭において頂きたい。
まずはこちら。
この名前、どんな漢字を想像するだろうか。
2019年度生まれの5万7000件の中だけでも
38パターンの表記があるので
漢字表記はいくらでも考えられるのだが、
特に一般的だと思われるものが2種類ある。
このふたつだ。
「さくら=桜」はもちろんのこと、
「咲良」の方もそれほど読みづらいわけでもなく世の中に浸透している名前と言えるだろう。
これらが2003年と2019年で
どのように変化しているのか見てみよう。
母数の差があることに留意してほしいが、
人気に変化があるのは一目瞭然だ。
まず2003年度では「桜」の方が圧倒的に多く
「咲良」はその2分の1以下に過ぎなかった。
しかし2019年度では全く逆転しており、
「咲良」が65名と大幅に増加している。
「さくら」は言わずもがな日本を代表する花の名前であり、漢字表記は当然「桜」だ。
「咲良」というのは、ようは当て字である。
しかしながら現在の子どもたちの名前では
「さくら」という響きには「桜」より
「咲良」を使う方がポピュラーになっている。
これはなぜなのか。
「桜」が明らかに春をイメージするのに対して
「咲良」ならそこまで生まれた季節に関わらず名付けられるからだろうか……?
理由はわからないが、「さくら」に限らず現代の名前を見ていて感じるのは
もともとある言葉やそれまでの前例などにとらわれない、自由な漢字の用い方が広まっているということだ。
「さくら=桜」というのはいわば固定観念で
響きを捉えて「さく」と「ら」、なんなら「さ」と「く」と「ら」、それぞれに一文字ずつ漢字を当てていくことだってできる。
それが現在の名前の多様性に繋がっているのは確かだし、逆に読みにくい、いわゆる"キラキラネーム"が増えている一因でもあるだろう。
その良し悪しは個々の判断や感性に委ねられる主観的なものであり、絶対的な善悪もなければ誰が決めるわけでもない。
だからここでどうとは言わないが、
「桜」より「咲良」が人気だということが、ひとつの事実としてあるのだ。
ちなみに、「さくら」という響きで
1番人気の表記は「桜」でも「咲良」でもなく
2003年・2019年ともにひらがな表記だった。
その数なんと、
2003年度で72名、2019年度で74名。
母数を考慮するとこの16年でひらがな「さくら」の人気は落ちているようだが、
それでも「桜」や「咲良」、その他の漢字表記と比べると圧倒的な支持率を維持しているようだ。
続いては、こちら。
前回からこの画像の背景は
男子名が水色、女子名がピンクと統一してきたのだが(といってもそれは"主に"の話であり、少数ながら「さくらくん」も当然存在する)、
「いぶき」はわりと中性的で男女問わず見られる名前なので、あえて色を変えた。
さて「いぶき」。
どんな漢字を想像するだろうか。
まず、ごく一般的な日本語として思い浮かぶ漢字表記がふたつあると思う。
言葉としての「いぶき」でパッと思いつく漢字はまあ大概このどちらかだろうが、
残念ながらこれからの話に「息吹」は関係しない。
なぜなら「いぶき」という響きに「息吹」を用いる名前は(少なくとも2003年と2019年においては)僅かだからだ。
その数、2003年度で1件、2019年度で3件。
この少なさの理由はわからないが、
ここでは一旦「息吹」のことは忘れてもらって
全く別の「いぶき」を紹介したい。
漢数字の「一」に、颯爽の「颯」。
これで「いぶき」と読む。というより、読ませる。
以前、#25の記事でちらっと触れたのだが、
「一=い」はシンプルな①ぶった切り、
「颯=ぶき」は、おそらく「颯」が意味する「風の吹くさま」から連想した⑨イメージ読みなのだろうと考えられる。
こんなにも読めないのに、2019年放送のドラマ『3年A組』の主人公の名前にも使われており、
実際のところもう最近の子どもの名前としてはごく普通に存在している。
そんな「一颯」と「伊吹」。
読みやすさで言えば、もちろん「伊吹」の方に軍配が上がるだろう。
さて、2003年と2019年を比較してみよう。
2003年度は「一颯」は僅か4名である一方
「伊吹」が17名と大きく上回っていたが、
2019年度では23名に留まる「伊吹」に対して
なんと「一颯」は41名で顕著に増えている。
この2019年に関していえば
前述の『3年A組』が同年1月〜3月に放送されたことが影響しているかもしれないが、
なんにせよ2003年からの変化はかなり凄い。
読めない名前が多数を占めるというのは
なかなか昭和や平成初期には見られなかったことだと思うし、現在の名付け界においても
これほど読めない名前が浸透するというのは他にない、珍しいことのように感じる。
そもそも「一颯(いぶき)」がいつ頃世に現れて広まっていったのかは定かではないが、
少なくとも2003年には、私が集めたほんの2万5000件の中に4件確認できるくらいには実在していたということだ。
そこからドラマの登場人物の名前にもなって
「伊吹」を超え、「いぶき」の漢字表記の圧倒的な人気ナンバーワンになるまでには、
その16年間でどのような変遷があったのか。
人名に使える漢字が法律によって制限されてから
「颯」が名前に使用できるようになったのは1990年のことなので、
逆に90年代に遡って、「一颯(いぶき)」の1人目を見つけてみたくもなる。
むちゃくちゃ暇になったら調べてみようかな。
芸人としてはむちゃくちゃ暇にはなりたくないけど。
というわけで、今回は以上となる。
毎年、色んな会社やメディアがその年の人気の名前ランキングを発表している。
でもそういう上位だけじゃない、もっと細かい流行の変化や名付けの変遷みたいなものは、やはりこうして自分で調べに行かないとなかなか知ることはできない。
私は2003年度と2019年度というふたつの点の情報しか手元にないけれど、比較することでなんとなく線になって見えてくるものがある。
せっかく明確なソースのもとに収集した名前が
あわせて8万件以上あるのだから、
こういう研究的なことは引き続きいろいろやっていきたいところだ。
それでは、また次回。
※上記の名前は、誰でも閲覧可能なネット上に載っていた名前です。
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