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不在の存在

彼が家から居なくなって1週間が過ぎた。隕石が夜空に一瞬の閃光を残して消え去るような見事な出奔だった。

昨日まで当たり前のように一緒にいた大好きな人が突然消えて居なくなるのは短い人生でこれで3度目。好きな人ばかり蒸発してしまうのが悲しくて、もはや私になにか要因があるのではと下手に勘ぐってしまう。ひとりでぐじぐじと悩んでいたら「そうじゃなくて、すべてをぶっち切るようなポテンシャルがある人はそもそも美しいのだから、そんな人ばかり好きになってしまうのは致し方がない」と友人が諭してくれて少し救われた。優しくて純粋で美しいものから順番に壊れてしまい、しょうもないものだけが残る。世界そのものが歪んでて複雑すぎるのだから、まともに受け取ってしまったら正気ではいられないのは分かるような気がする。

家に帰るたびにもぬけの殻になった彼の布団が置いてあって心がしくしく痛む。真夏のうだるような暑さのリビングで「きっと気がついたらもう年末だね」と笑いあったのが遠いおとぎ話のようだ。キッチンストックを整理していたら、私が発熱したときに彼が買ってきてくれたポカリとカロリーメイトが出てきて涙が思わずこぼれおちた。後片付けを私にさせるなよと胸のうちで毒づく。しかし、彼が願った未来なわけでもないのだから誰も悪くない。

もう大人なので、時間がすべてを解決することは何となく知っている。彼の不在にもいつか慣れる日は来るのだろう。でも今はそうやって慣れてしまうことがどうしようもなく悲しいし怖い。もう少し不在の存在ですら抱えていたい。波のように寄せては返す喪失感の中で私は立往生している。

誰かが人と人の縁は惑星の軌道ようなものだと言っていた。自分達の意志とは無関係に永遠に近づいたり離れたりを繰り返す。だから、ほんの数ヶ月のあいだでも出会うはずのなかった私達が出会い濃密な時間を過ごしたことは奇跡に近い。日常だと錯覚していたそれはそもそも非日常のボーナスステージだったのかもしれない。いずれにせよ、彼が私に残した爪痕をその美しさを忘れることは私は到底出来ないと思う。またいつか笑って会いましょう、生きてたら。だから私達は生き続けなければならない。

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