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今日ときめいた言葉183ー「人間の知的能力には二つある」(続・老害と言われないために)

(ヘッダーイラストは中外製薬から転載)

(2024年7月20日付朝日新聞 「50代からの幸せとは」国立長寿医療研究センター 西田裕紀子氏の言葉)ー後編

上記の記事には続きがあった。それは本人が「結晶性知能」(経験や学習によって後天的に獲得、蓄積される能力であり、年を重ねるほどに成熟していく知能)を発揮していると思っても周りはそう思わず「ウザイ、老害だ」と受け止められるのではないかという心配である。ここではそうならないためのヒントが述べられている。

その心配を和らげてくれるのが、エリク・エリクソンの「生涯発達論」であるという。彼は、人生を八つの発達段階に分けた。それぞれの時期には心理的葛藤があるが、それを克服して行くなかで人間的な強さを獲得すると考えた。

エリク・エリクソンの「生涯発達論」(精神分析家でアイデンティティという概念を広めた人です)

「成人期」(40〜65歳)の課題は、「世代継承性」(ジェネラティビティー)であるという。子供を育てたり後進を導いたり創造的なことをすることで、次世代に関心を向け社会貢献をすることで成熟性が高まって行く。ジェネラティビティーの発達は大切な人のために行動できる「ケア」という人間的な強さを獲得できる。

一方で、エリクソンは、それぞれのステージで葛藤を生む概念も提示している。ジェネラティビティーに対立する概念として「自己陶酔」をあげている。自分中心の世界にいて関心が自己に集中していると、周りが見えず生き生きした他者との信頼関係が築けず心理的危機に陥るー「老害」もその一つかな?

そうならないためのコツとして、心理学者ポール・バルテスという人の提唱した3段階の「補償を伴う選択的最適化」の理論が参考になると西田氏は言っている。

  1. 選択  今の自分に合わせて目標を選ぶ、あるいは目標を下げる。

  2. 最適化 選択した目標の達成に向けて最善を尽くす。

  3. 補償  今の自分に足りない部分は代わりの手段を使う。

ポール・バルテスの「補償を伴う選択的最適化」

具体例としてピアニストのホロヴィッツの演奏法の変化について説明している。彼は、年齢とともに演奏法を工夫して自分に無理のないやり方で最高の成果が出せるように努力をしていたという。

以上のことから、結晶性知能を発揮することはなかなか大変なことだと分かる。だが結論として言えることは、「目標を持つことは大事なことだ。だが無理せず自分に合った目標を持つことだ」

それを裏付ける二つの研究があるという。

一つめの研究は、

6163人の中高年を14年間追跡調査した結果、人生に目的や目標があると感じている人はそうでない人より長生きする可能性が高いという結果が出た。

二つ目の研究は、

246人の高齢者の認知機能を検査し亡くなった後に脳を解剖して病理学的変化を調べると、人生に目標を持っている人は、脳内でアルツハイマー病の神経病理が進行していても知的な能力は維持されていた。

高齢者になると若い頃と同じ目標を持つことは難しいが、好奇心を強く持ち結晶性知能をうまく使って目標を選択して生き生きと年を重ねることを目指したいと西田氏は締めくくっている。

自戒を込めてー高齢者は自分が見えなくなりがちだ。見えなくなっていることにさえ気づかずにいる。どこかの国の大統領のように。



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