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今日ときめいた映画160ー”LIVING”(黒澤監督作品「生きる」のリメイク)を見る

(タイトル写真はファッションプレスから転載)

黒澤監督作品「生きる」のリメイク版 ”Living” ーイシグロカズオによる脚本。インタビューでご本人が語っていたように変更が加えられている。でもコアになるポイントを変えずに絶妙に加えられた変更が映画全体のイメージをオリジナル作品よりも明るいものにしていると思う。

オリジナル版についての記事は以下をご参照ください。


やはり日本人で戦後の状況を感覚的に感じられる分、オリジナル版には感情移入をして見ていたと思う。敗戦から7年たったとはいえ、人々の暮らしは貧しく、明るい未来を考える余裕もない生活ぶり。一方で退廃的とも思える裏の世界。昭和の映画によくある猥雑な雰囲気を延々と描き出す(こんなに長く必要なのだろうかと疑問に思いながら見ていた。オリジナル版143分、リメイク版は102分でこのような冗長な部分を削ぎ落とし簡潔な仕上がりになっていると思う)

リメイク版は時代背景がさほど変わらない1953(昭和28)年だが、同じ戦後でも敗戦国と戦勝国では社会を覆う空気は違っているのだろう。どん臭い日本の公務員とスノッブな英国紳士。バッチリ服装も決めて列車のコンパートメントで出勤する風景。オシャレ〜。

二つの作品は、その制作時期の違いからくる印象の違いがあると思う。オリジナル版は昭和27年(1952)制作で同時代の世相をそのまま写しとっている点でその臨場感や熱気のようなものを感じる。一方リメイク版は2022年製作で現代から過ぎ去った過去を回顧するというスタンスだろう。冷静で客観的な印象を受ける。

志村喬の演技も新派の舞台を見ているようで重かった。でも見方によってはああいう演技が好きだと言う人もいるだろう。「うまい。名演技だ」と。かたや「リメイク版のビル・ナイの演技は、イシグロカズオも言っているように笠智衆を彷彿させる抑制された静的な演技だった。私はこちらの方が好みだけれど。

映画の後半部分、主人公の死後。結末はオリジナル版と同じく、役人たちは結局「ゾンビ」のような人間に戻ってしまい、たらい回しの仕事ぶりが復活する。だがここから変更を加えている。主人公は新人職員に自分の心情を吐露した手紙を残す。そこには「初心を忘れずに生きよ。大切なことは他人がどう思うかではなく、自分が何をすべきか」であるというような人生訓が書かれていた。

オリジナル版は作品冒頭でこの主人公についてナレーションが入り、あらかじめ人物や背景が知らされてしまう。リメイク版は最後に主人公の心情を吐露させて説明的にまとめていることで得心がいった。そしてこれからこの若者はどう生きるのだろうかという期待感を残した。また、新人職員と女性職員はデートをする仲になっており、未来への明るさを暗示させる結末になっていた。

リメイク版では「ゴンドラの唄」に代わって歌われたのはスコットランド民謡「ナナカマドの木」。主人公がスコットランド人であるという設定による選曲のようだが最期に歌う歌がかたや乙女の心に重ね合わせた自分の心情をしみじみと歌うのに対し、かたや自分の故郷のナナカマドを思い浮かべながら故郷を思う。オリジナル版で「ふるさと」を歌うような感じだろうか?それではムードぶち壊しになるか?😆

最後に父と息子の関係について一言。

以前家族の中で娘と父親との心理的距離は一番大きいという記事を書いたが、このドラマの中で描かれていた息子と父親の関係を見たら、これは娘・息子と言った性別とは関係なさそうに思える。生前もう少し親子関係が良好でコミュニケーションが取れていたなら、主人公の寂しさに寄り添えたのではないかと思ってしまう。




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