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底つき体験

「今から入院できませんか。」
9時。私は携帯を握りしめて
いつものクリニックに電話した。

「入院ってどこにですか。」
受付の人の一言に我に帰る。
そうだ。どこに入院すればよいのだろう。
わたしはどこに入院すれば今の苦しさ
から逃れられるのだろう。

持病の強迫性障害が
三月の末のある出来事で悪化した。
主人の仕事が気になって気になって
たまらなくなったのだ。つまり、主人が
強迫の対象になった。

それ以来、主人や家族を巻き込んで私の
強迫行為は時に激しさを増した。
家族に確認するのだ。
「私は路頭に迷うのではないか。」

一番の被害者は老いた父だった。
ラインや電話で不安なことをまくしたてる。
幼いころあまり相手にされなかったうっぷんを
50近いおばさんがまくしたてる。
父はとうとう今朝近所の精神科に見てもらえないか
聞きにいった。
どんなにか辛かっただろう。

行き詰った私はとうとうどこから飛び降りたら
よいか。考え始めた。

夫は追い詰められて泣き、娘は学校を休んだ。
それでも私の頭の中の警報は鳴りやまない。
家族は崩壊寸前になった。

その時である。
だれもがきっと信じてくれないと思うけど
聞こえたのである。
「それは強迫観念である」と。

我が家は裕福だった。私はそれにしがみついていたんだと思う。
もう 裕福でなくてもみんなが元気で
生きていて、少し笑顔で、時々美味しいものが
食べれたら満点だ。
わたしは昼寝をして、疲れていたのか夕方
座ったまま眠った。

苦しむことはなにかをなしとげること

夜と霧 

わたしは苦しむことで苦しみぬくことでなにかを成し遂げたのだろうか。
それは本当に大切なもの。身近にありすぎて当たり前すぎて
気付かないものに気が付いたことだと思う。
わたしは何も持たない人間だが、
今、幸福だ。

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