『バッタを倒すぜアフリカで』前野ウルド浩太郎

 本屋で目を引かれたこの本、見覚えがあるような気がしていたら以前読んだ『バッタを倒しにアフリカへ』の続編でした。読んだのは大分前の記憶だったが、出版は2017年だったので4,5年程前でした。以前も奇抜なタイトルと表紙の写真に惹かれて手に取った気がするので、再び著者の思惑にハマったようです。

 以前の、倒しに、の本はエッセイがメインだった記憶があるのですが、今回は学術的な内容が多分に織り込まれており、全600頁の超大作でした。読み進めると所々に引用元が記載されており、バッタ学の歴史までも解説されていました。(遡ること旧約聖書までいくためとても骨太な内容でした。)何より文章の言い回しが独特で、話し言葉による描写に今回も惹き込まれていきました。

 最近ヘラクレスオオカブトを飼い始めたのですが、交尾をさせるタイミングを図るのにコツが必要です。手探りでブログやYoutubeで調べていると、蛹から成虫になっても数ヶ月エサを食べず、食べ始めてから一定の水準まで食べるようになると「成熟(交尾の準備ができた)」となる事が分かり、試行錯誤してなんとか卵を産んでくれました。昆虫に成熟というワードを使う事は始めて知りましたが、この本を読んで人間も含めて生きもの共通の性成熟という現象であることが分かりました。

 西アフリカからインドにかけて生息し深刻な農業被害をもたらすサバクトビバッタは、孤独相(平時で個別に生活)から群生相化(群れとなり変色する)した時に群れで農作物を食い荒らすとの事です。そしてそのタイミングは干ばつの後の大雨の後、つまり干ばつでバッタの捕食者がいなくなり、大雨で植物が多く育つタイミングで発生すると考えられているそうです。著者は元々無類のバッタ好きから今では西アフリカの国々で国際的な防除機関に派遣され、サバクトビバッタの交尾・産卵の研究から効果的な防除に取り組まれているとの事でした。

 サバクトビバッタは性成熟後に雌雄がどちらかに偏った集団となり、オスの集団(レックというそうです)にメスの個体がやってきて、夜間に交尾をすること、オスの執拗な交尾から身を守るため、普段は別居をしていること(性的対立)から、群れに向かって飛行機から薬剤散布する従来のやり方を、オスの集団を見つけて集団産卵を待つことで効率的且つ効果的な防除ができるとの事でした。またメスは精子を体内に貯蔵でき、最後に交尾したオスの精子が受精に繋がるため交尾後は、オスが他のオスとの交尾を防ぐためにメスをガードする修正があるとの事でした。

 バッタの生態、習性など初めて知る事ばかりで面白かった事に加えて、間に挟まれる著者を取り巻く面白エピソードや、研究結果がアメリカの学術誌に載るまでの奮闘記も興味深く、研究者という職の厳しさも感じました。またバッタの習性はヘラクレスと通ずるのではと思う事がいくつかあったので今後調べて行こうと思います。ヘラクレス飼育も論文を参照してみようかと思います。

英語の論文はコチラ:https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2104673118



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