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似て非なる色、黒と紺

黒と紺は、私の中では似て非なる色。
どちらも濃い色で、ベーシックカラーで、私に似合う色でもあるのに全然違う。
ここ数年の着たい服の変化、心境の変化を象徴するのが、濃い色の服を選ぶときに手に取るのが紺から黒に変わったことでした。


黒を着るようになるまで

遡ること3年前、自問自答ファッション講座を受けたときに「黒とネイビーどっちを着ますか?」という質問をされ、迷いなく「黒は顔色が悪く見えるから、ネイビーです」と答えたのを覚えています。
当時は黒だと顔色が悪く見えると本気で思っていたし、髪を染めていなかったので、黒を着ると全身が重たい印象になりあか抜けないと思っていた。
だから服は白と紺、小物で黒を足すのが当時定番のコーディネートでした。

そこに変化が出てきたのは転職がきっかけでした。
転職活動を機に、ぱっと見分からないくらいの色だったけど、約10年ぶりに髪を染めました。
髪の色を変えることで、黒い服が重くなりすぎず着られるようになったのが最初の変化。

転職先が決まり前職を辞めると宣言して初めて、これまで自分は仕事で人の目を気にして、小さく目立たなくしてきたのだと気づきました。
辞める前にそのことに気づいたら、もっとのびのびと仕事ができたかもしれないとは思ったけど、当時の仕事を続けている限りは多分一生気づけなかったと思うから仕方ない。

転職して今の会社に入り、入社3か月で未経験でありながらマネジメントをいきなりやることになったことで、仕事の量も責任も一気に重くなりました。
転職したこと自体は後悔していないけど、正直想像をはるかに超える苦労をしてきています。
最初の頃は、表面は穏やかで戦う意志など感じさせないけど、内側の芯はしっかりしている人であることを理想としていたし、選ぶ服もそんな感じでした。
けれどもだんだんそれどころじゃなくなってきた。
目の前にやってくる様々な出来事を乗り越えるためには、強さを内に秘めているだけではやってられない。
自分の意志を持ち、何が起こっても揺るがない人になるためにファッションの力を借りてきました。

とはいえいきなり着る服を変えたわけではなく、自問自答ファッションで最初に揃えることをおすすめされている、靴・バッグ・アクセサリーに時間もお金も費やしたのが昨年のこと。
昨年は服こそあまり買わなかったけど、これまで好んで着ていた紺の服やきれいめフェミニンな服が、少しずつ気分に合わなくなってきた時期でもありました。

ファッションを楽しむベースが整ったことで、本格的に服に焦点を当て始めたのが今年の春のこと。
初めて上下黒のコーデを着ようと思ったのは、美術館で自分の姿がガラスに反射しないようにするため黒がおすすめというのを見たからでした。
あと、シアーシャツとチュールスカートを組み合わせたディオールっぽいコーデをしてみたかったのです。

実際に上下黒のコーデを着てみたら、とてもしっくりきて、これまで紺の服に感じていた物足りなさが解消された気がしました。
黒の力で、何が起こっても負けない意志の強い自分に近づける気がした。
こうして黒の服をすっかり気に入ってしまい、今年は夏の暑さも気にせず黒ばかり着ていました。

黒と紺の印象

以前の私が全身黒のファッションに持っていたイメージはモード、ロック、喪服など。
真っ黒の服は自分には強すぎると思い、部分的にしか取り入れることはありませんでした。

今の黒の印象は、閉鎖的でありながら自由でクリエイティブな色。
なんとなく着る人も多い一方で、意志を持って着ればそれを余すことなく表現できる色。
黒は相反する要素を持ち合わせた、奥深く面白い色なのです。

以前読んで心に響いた、黒について書かれた一節があります。

黒という色はただの黒であって、一見、みながそこに同じものを見ているように感じるかもしれません。
でも実際は、さまざまなイメージを呼び起こし、想像を掻き立てるとても豊かな色と私たちは考えます。
自由、反骨精神、スタイリッシュ、エレガンス、タイムレス、強さ、安心感、暗闇、毒、魔法……
纏う人それぞれの個性や目的によって変容するその唯一無二の色

ABOUT – Numero CLOSET

ポジティブにもネガティブにも、個性的にも無個性にも、自由自在に変容する魅力的な色。
かっこいい印象になりがちな色だけあり、フェミニンなアイテムも黒なら気負わず着られるところも黒の好きなところです。

一方、私が抱く紺の印象は、真面目で落ち着いていて信頼感がある、社会性の高い色。
グレーよりは意志を感じるけど黒ほど主張しない、好感度が高い色。

色に対するイメージや考え方って人それぞれなので、なんとなく黒を選んできた人が意志をもって紺を選ぶことになる、というパターンもあるのかもしれない。
けれどもあくまで私の場合、紺を着てきたのは、社会に馴染むための「糖衣」だったのかもしれません。

糖衣を脱ぎ捨て、意志のある人になるために。
今年の春夏は紺の服をほとんど着ることはなく、以前から持っていた紺の服も大半を手放してしまいました。

紺との和解

そんなわけで紺の服がほとんどなくなり、暗い色のほとんどが黒に置き換わったかに見えた私のクローゼット。
早くも秋服で変化が起こります。

それが春の終わりにオーダーした秋服、yeeの「みずたまり」。
黒地に青をメインとした水たまりの柄が描かれており、遠目に見ると濃紺に見える服です。
当時は紺より黒!の気持ちだったので、正直今の自分の色の気分からは外れるけど柄も形も素敵だし……という気持ちでオーダーしました。

秋になり、受け取った服を着てみてびっくり。
この紺なら良いと思えました。
ハリと光沢感のある記事でフォーマル感はあるものの、真面目過ぎずどこかモード。
洗練されていながら手仕事の温かみがある服なので、紺のかっちり感がちょうどいいバランスを生み出してくれている。

この秋はもう一着紺の服を買ったのですが、そちらは大花柄の華やかなデザイン。
素材感も面白く、こだわりの強さが感じられる服です。
紺にありがちな落ち着いた雰囲気、静の雰囲気とは真逆といってもいいくらい。

紺の服は真面目過ぎる、社会に馴染もうとしすぎると思って物足りなさを感じていたけれど、モードな服やクラフト感のある服であれば今の自分にもしっくりくるのだと分かりました。
色が真面目なら、それ以外の要素で思い切り遊んだとしても良い感じにまとまってくれます。
これぞ「意志を持って選ぶ紺」。
まさかの1年経たぬ間に、紺と和解してしまったのでした。

色をうまく使う

似て非なる色、黒と紺。
どちらも濃い色で、ベーシックカラーで、私に似合う色。

だからこそ無難に着ようとすればいくらでも着れてしまうけど、なんとなくではなく意志を持って選びたい。
色の持つイメージを戦略的に借り、服と自分自身のバランスが取れるポイントを探っていく。

せっかく似合う色なのだから、敬遠することなく。
黒の自由さも、紺のまとめ力も、うまく活用して着こなせる服の幅を広げていけたらなと思っています。

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