それってほんとに恋なのかい-1

ルーズソックス。携帯電話。ミニスカートの制服。日焼け。似たような曲が流れ、駅の裏の大型商業施設はまだなかった頃。今の夏よりはまだまだ暑さの柔らかかった、高校生の夏に、恋をした。

恋って断然夏にするのがいい、とそれから何十年も経っても思っている。楽しさも、嬉しさも、どきどきも、ぎらぎらの太陽とこだまする蝉の声で、5倍増しくらいで味わえるから。

高校3年生はそれまで部活漬けだった自分の頑張りを、自分で昇華させるのに必死だった。こっそりバイトをして、他校の友達と遊んで、大学生と付き合ってみたり。とにかく、時間がいくらあっても足りないくらいに、楽しい瞬間の連続だった。

そんな高校生活の、暑い夏の日に、友達に誘われて野球の試合を見に行った。「甲子園目指して頑張る同級生たちを応援しようよ!」と。しかも「制服で行けば、応援団だという事で入場料100円で見れるって!」と。野球かぁ、くらいの気持ちだったけど、夏休みに制服着て、しかも行先は学校ではない所。それだけでもう、充分楽しい!と、遊びに出かけた。

それは、もう、うっかりとわたしのところへやって来たのだ。

遠くのグラウンドで、顔も見れないくらい深く帽子を被り、全力で野球をしている彼に、一瞬にして恋をした。何の理由もない。ただただ、私には死ぬほどかっこよく見えたのだ。動きのすべてが。今までも校内で何度かは見かけたことはあるし、野球部のキャプテン、ってことはもちろん知っている。それ以上は何もないままに今日まで過ごしてきて、突然恋をするのだ。そうなると私は変わる。

夏休みのバイトはすべて野球部の応援を中心に予定を組み直し、友達との約束も優先順位は試合の次。あれだけ楽しく遊んでいた大学生のサッカー部の彼だって、もはや霞んで見えない。おんなじ高校に好きな人が出来ちゃったら、毎日でも会えてしまうのだ。私の恋心は、積み重ねた時間を、新しいどきどきが上回ってしまった。

彼の教室の前を通ると緊張し、ついつい目で追いすぎて、目があって照れる。友達を介して何とか連絡先を交換してもらうも、大学進学のための勉強に集中したい彼は、「友達でならいいよ」と言った。なんだっていい。始まりなんかどうでもいい。私は、彼に私を知ってもらうだけで、もう生きてきてよかったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?