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ガン経験から生まれ変わったミュージカル「生きる」制作秘話

ご無沙汰しておりました。「おい、お前まだ居たのかよ」と思われるでしょうが、このコロナ禍で、泣き演技で同情を買いインターンにしがみついております。

そんな中、ミュージカル「生きる」を現場で盗み見させてもらおうと意気込んでましたが、他者は立ち入らないようお達しがあり、稽古場には侵入できませんでした。
亞門さん、みなさんも2回のPCR検査を受け、慎重で万全な稽古場。亞門さん曰く、検温、消毒以上に気を使ったのが靴だとか。外履き内履きは消毒マットも徹底していたと。マスクで役者さんの表情が見えない中、歌もダンスも本気でやって、劇場入りしても、通し稽古のみマスクを取ったらしいです。

全公演全て終了し、配信も終わっていますが、思い出にと、亞門さんに振り返ってもらいました。

ガン&コロナ禍になったからこその「生きる」エネルギー

インターン(以下略)「今回の再演で、ガンを経験して良かったですか?」

亞門さん (以下略)「もちろん、ガンサバイバーになって本当に良かったよ。感謝しかない!!!」

「はい、はい、思った通りのハイテンション。」

「いいや。本心で嬉しいんだ。舞台を作るって自分が体験したことを肥やしにして、役を膨らませていくこと。それは役者だけじゃなく演出家もそう。ガンを経験させてもらって、宣告されたときの気持ちとか分かるようになったし、特に今回は、コロナ禍の辛い自粛や、相次ぐ公演の中止で、役者たちはあらためて舞台に立てる喜びや、生きている喜びが重なった。稽古では1日目から今までと違ったエネルギーが満ちていたよ

「いやいや、亞門さん稽古初日の出発前に、『海外なんかみんな閉鎖して無理して開けてないのに、なんで日本はこんなに頑張っちゃうの?』って疑問視してましたよ」

「実は、僕も最初は、このコロナ禍で本当に舞台を進めていいのだろうかと悩んだ。だけど稽古初日、本読みで鹿賀さんが「二度目の誕生日」を歌ったら、突然、涙腺崩壊。涙が止まらなくなってね。マスクがあって本当に良かった、だって演出家だけが嗚咽してても変だしね」

「マスクで泣き顔を隠してたんだ(笑)。確かに僕も涙腺崩壊しました(涙)」

「すぐ休憩だったので、稽古場から一人外に出て、空を見ながら、まだ舞台が作れることに心から感謝したよ。やっぱりライブの歌、声の力は凄い。渡辺勘治のこれからは一瞬も生を無駄にしないという気迫がひしひしと伝わってきたんだ。

お陰で僕の心は完全にギアチェンジ! 翌日からは、上演出来るか出来ないか、見えない先のことを心配するのではやめて、今、その瞬間瞬間に集中して、一つ一つを精一杯積み上げていこうと決めたんだ。

まさに、ガンを経験して感じたことを、コロナは思い出せてくれたんだ」

名優、市村正親・鹿賀丈史は忘れ、役柄の人生を生きること


「それからの稽古は、マスクをしたままという初体験のもので、キャストは大変そうだった。でも良かった点は、自分がノート(ダメ出し/良いとこ出し)をするときに、声が伝わりにくいからマイクを通してさせてもらったことだと思う。今回は、市村正親さんや鹿賀丈史さん、全員のノートをマイクで言ったんだ。だから全員が僕からのお互いのノートを聞くことになった」

「通常は、お互いのノートを聞かないんですか? 」

「特に主役のノートは数も多いし、他の役者の前で言わないことが多い。聞かれたくない役者もいるからね。でも本当は、恥ではなく、全員が同じ方向に進んでいくために、なにが大切かを共有する場所でもあるんだ。だから今回は、マイクを通して言葉を選び、相手を傷付けずノートを言って、お互いが演じる上で、何を共有するべきかを知る良いきっかけになったと思う。

「傷つかないよう、僕にもマイクでダメ出しして下さい(笑)」

「例えば『生きる』の稽古では、内容が内容だけに、どの役者も主役•渡辺勘治に思い入れが入ってしまう。でもそれが強くなりすぎるとドラマが崩壊するんだ。大切なのは、それぞれが渡辺勘治と無関係に、役柄の人生を生きるかにかかっている。他の役が渡辺勘治に対峙するからドラマが生まれるから。

正直、初演では役者たちが、どこか名優の市村さん・鹿賀さんとお仕事させてもらっている的な感じが拭えなかった。でも再演は、全員がそれぞれ自立したキャラクターになったんだ。だからマイクを通して、あえて細かい、厳しいノートを全員が共有し、それぞれが自分の役としての立場を明確にしていったんだ」

「noteは、前に亞門さんがガンになってからスタートしているんですが、ガンになって初演と再演で、捉え方が変わった所は具体的にどこですか? 」

「やっぱり、ガンの宣告を受けたシーンかな。僕が実際、ガン宣告を受けたときは『何で自分が』と悔しみや苛立ちがあった。誰もガンになって聖人のように整然といられる人なんていないよ。だからこそ市村さん鹿賀さんに『もっと怒ってください!身勝手な嫌な人になってください。あと数ヶ月とガンの宣告を受けて、家に帰ったのに、息子に別居か建て替えだとか責められたら、誰だっていい加減にしろ!と怒鳴りますよ』って」

「そういう意味でも、亞門さんはこの作品と出会うべきして、出会ったんですね」

「でも、これ、違う演出家がやるはずだったんだ」

ピンチヒッターとして受けた演出。ピンチをチャンスに

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