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舞台「チョコレート ドーナツ」のネタバレ帳

構想5年、世界初演を前に、コロナ陽性者が出たため2回の初日延期をした、舞台「チョコレート ドーナツ」。亞門さんが予定通りの初日を開けられなかったのは、同時多発テロで「アイガットマーマン」の初日が延期したとき以来。そんな心情や舞台裏を包み隠さず語って頂きました。なので、ネタバレ嫌いの方は、読まないようご注意ください!
映画『チョコレートドーナツ』予告編

インターン(以下略)「全米映画祭が絶賛、観客賞を総ナメにし、日本でもロングランヒットした映画「チョコレートドーナツ」を舞台化なんて、プレッシャーしか無いですね? 」

亞門(以下略)「黒澤明監督の『生きる』とはまた違うプレッシャーはもちろんあったよ。監督が生きている訳だし、特に日本にはこの映画の熱烈なファンが多い。僕も映画会社からの案内で試写を見て感動して、コメントも書いてた。
だから、映画公開から1年後、パルコ劇場から舞台化の可能性があるからと、監督でありプロデューサーのトラヴィス・ファインさんと会ってくれと言われた時は興奮したよ。トラヴィスさんは日本で新たな映画の撮影を計画していた時でね。僕は、京都で奉納劇を演出していることもあって、京都の町屋でランチをしたんだ。

友人の脚本で、クイーンズで起きた実話から脚本化されていたんだけど、ずっとお蔵入りしていた。数年後、映画の題材を探していたトラヴィスが、彼の脚本を読んで閃き、新たにポールの役をプラスして裁判のシーンを入れ込み再構築。ルディがダウン症のあるマルコの里親になれるかという問題点を強調して、映画用の脚本を作ったんだと語ってくれた」

「ダウン症のある設定や同性愛とか、マイノリティーな可哀想な人たちと、ついステレオタイプな悲劇の主人公だけになりがちと心配してたって本当ですか? 」

「特に舞台化では、可哀想な悲劇で終わらず、観客にも考えて欲しかったんだ。この映画の設定である1年前の1978年は、ゲイの歴史では忘れてはいけない、ハーヴェイ・ミルクが射殺された年なんだ。彼はサンフランシスコ州の市会議員に当選した、アメリカで初めてゲイを公表しての選挙で選ばれ、公職者になった人。

ゲイが議員になったことで抗議や殺害まで起こる時代だった。そんな時、ゲイやトランスジェンダーがダウン症がある子の里親になれるかは、とてもハードルが高かった、と言うか誰も想像だにしなかったと思う。そして、やっと現代だからこそ扱える題材になっただけに、お涙ちょうだいのかわいそうな人たちで偏らせたくなかったんだ。映画は実に素晴らしい。でも、僕は余りに辛すぎて息ができないほどだった。だから、舞台版はやや違う視点も入れ込んだ。ミュージカル『生きる』の黒澤明監督から学んだ ”笑わせて 怒らせて 心揺さぶらせる” というやり方を、映画版以上に入れ込みたくてね」

映画版には無い、立体性あるキャラ作り

ここでも黒澤監督のメッセージが生きてるんですね。どの辺が亞門オリジナルなんですか? 」

「舞台版は、ショータイムを多めに入れてエンターテインメントにし、新たにルディ(東山紀之)が唯一心が許せる素敵な家族のように、ショーパブのオーナー、ピアニスト 、負けず嫌いのキャリーとドラァグクイーンのダンサーたちのキャラを付け加えた」

「プリシラっぽい(笑)」

「もちろん、プリシラからも学んだよ。最初、脚本家の谷賢一さんは裁判がもっと長い裁判劇に重きをおいてたけど、僕はもっと人間味のある方に持っていきたかった。

だから、当時の趣味が悪い場末感が漂う世界が必要だった。それがルディたちにとっては唯一生きていける世界だったから。ルディが唯一自分の生い立ちを歌うシーンで、ポールに『今はリッチなパラダイス、作りものの世界』と歌う。彼にとってはこの場末がホッとできる場所なんだ。あえてルディの部屋も汚く、着る服もこだわりがあるものの、何とも寂しい感じにした。ヘアースタイルも賛否両論あると思うけど、僕が知ってるドラァグクイーンってカツラを取ると、ギャップが激しい。夢を見せる仕事だけど現実は厳しい感を出したかったんだ。この映画はミュージカルになりやすい設定だし、ショーシーンや転換に音楽を沢山入れてエンタメ感を出した」

「だからですか〜。 僕も正直、あんなにカッコいい東山さんがもったいないと思いましたよ」

「それが、スタッフにとっても難しくてね。衣装もメイクもどうしても一番素敵に仕上げてしまう。だって東山さんの肉体管理は素晴らしいし、美しいものは誰だって見せたいし、見たくなる。でも、今回は東山さんは決意して汚れ役に挑んでくれているんだ。物語に合わせ僕らも見てて、痛々しいほどのスーツや普段着を着せたよ。僕が『汚すよ、いいね?』って東山さんに聞いても『もちろんです、どんどんいってください』と見事にこの役に飛び込んでいた、潔い役者だよ」

「正直、東山さんが歌をここまで歌うとは思っていなかったです。特に映画でも最後に歌われていたアラン・カミングが歌う『I Shall Be Released』は大変だっただろうな」

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