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Viva Video! 久保田成子展 新潟県立近代美術館 レポート



新潟に生まれ、国際的に活躍したヴィデオ・アーティスト・久保田成子の展覧会が新潟県立近代美術館で開催された。

本展は故郷の新潟にある新潟県立近代美術館からスタートし、国立国際美術館(大阪)、東京都現代美術館と巡回する。


1.新潟から東京、ニューヨークへ


久保田成子(1937-2015)は、新潟県西蒲原郡巻町(現・新潟市西蒲区巻町)産まれ。
ヴィデオ・アートのパイオニアとして国際的に活動したものの、日本では作家としての彼女にスポットライトが当たったことは少なく、「ナムジュン・パイクのパートナー」としてのペルソナで語られることが多かった。
日本では約30年ぶりの個展となる本展では、そんな久保田の作家としての活動を年代順に構成し、同時代の美術の動向と共に、振り返る事が出来る展覧会である。

南画系の画家であった祖父の影響から、幼いころから絵が好きだったという久保田は、高校生のときに二紀展に初出品した油彩画「向日葵」が入選。その後、美術の道に進むことを決意し、東京教育大学(現・筑波大学)の彫塑専攻に進学する。その当初から同じく新潟県出身の彫刻家・高橋清に師事し、高橋の所属した新制作協会展にも彫刻作品を出品している。

卒業後は都内で中学校の美術教諭として働くが、1960年、叔母で現代舞踏会の邦千谷が自身のスタジオを開放すると、グループ・音楽やハイレッド・センターら、様々な若い芸術家たちが集うようになり、久保田もその中に出入りするメンバーとなった。

1963年、第15回読売アンデパンダン展への出品、そして同年12月に内科画廊で初個展を開催するに至る。その際に瀧口修造ら当時活躍していた評論家に手紙を送って猛アピールしたものの、結局展評は出ず、相手にされなかった。
そのことに絶望感を抱いた久保田は、ニューヨークでの活躍を夢見て、ジョージ・マチューナスに受け入れを懇願する手紙を出し渡米、フルクサスに参加する。

因みに当時、ニューヨークでは既に海を渡っていた日本人アーティストたちがいたが、久保田自身はアートスクールに行っていなかったため、彼らとの付き合いはほとんど無く、音楽家との方が相性が良かったと、92年の原美術館での未公開インタビューで語っている。
邦千谷のところで交流のあったグループ・音楽や、のちに参加するソニック・アーツ・ユニオンなど、確かに久保田は音楽関係者との親交が深かったと言える。



フルクサスでの彼女の有名なパフォーマンスは「ヴァギナ・ペインティング」であろう。女性器に筆を挟んで描くパフォーマンスだったが、のちにそれはパイクのアイデアであったと、久保田は語っている。しかし、久保田を語る上で欠かせない作品のひとつと言えるのではないだろうか。

「ヴァギナ・ペインティング」以降フルクサスと距離を置いた久保田は、同1965年、短い間だが夫となる音楽家のデイヴィッド・バーマンと出会う。その翌年彼らが結成した実験音楽グループ、ソニック・アーツ・ユニオンにパフォーマーとして参加。これが後のデュシャンとの出会いや、メンバーのひとりアルヴィン・ルシエのパートナーであったメアリー・ルシエと出会ったことで女性グループ「ホワイト ブラック レッド  イエロー」を結成することにも繋がっていく。


2.ヴィデオとヴィデオ彫刻




60年代後半になると、技術の進歩により小型のヴィデオ・カメラが発売され、一人でも外に持って出て撮影が出来るようになる。久保田はバーマンと離婚後はもともと恋人だったパイクと復縁しロサンゼルスへ行きパイクの制作の様子を見て触発され、ヴィデオを撮り始める。始めは撮影したヴィデオを編集した映像作品であった。

久保田の代表的な作品群に、「デュシャンピアナ」シリーズがある。久保田はデュシャンが死去したことに端を発してバーマンが一部音楽を担当した「リユニオン・コンサート」でデュシャンとケージのチェスの対戦を写真に収めた記録集を自費出版し、そしてシリーズが制作されることとなった。
デュシャンの人物そのものや彼の作品を引用した、本格的なヴィデオ彫刻のはじまりであり、本展でも注目される作品群である。



「デュシャンピアナ」シリーズは彼女の名声を高めた一方で、久保田は新たなヴィデオ彫刻も制作し始める。

例えば代表作のひとつ「三つの山」は、久保田が魅了されたナヴァホの風景やアメリカの山々をはじめ、故郷の日本の山、そしてルーツである小千谷の風景にインスパイアされた作品である。それぞれの山に複数のモニターがはめ込まれ、4つの異なる映像が流れるとともに、周囲の鏡によって映像の光が拡張されている。



そして最後に触れておきたい作品が、ヴィデオ彫刻ではなく映像作品「セクシュアル・ヒーリング」である。パイクが脳梗塞で半身不随になったとき、若い女性セラピスト2人に介護されリハビリする様子を映しマーヴィン・ゲイの「セクシュアル・ヒーリング」に乗せて作られた作品だ。病院ということもあり躊躇していた久保田だが女性セラピストたちに勧められ、カメラを回すことを決めたという。パイクの介護で制作を含めなかなか自分の時間が確保出来ない中で、介護の様子を作品にしたのだった。
この作品まで見終えて、筆者は、久保田は様々な壁に当たりながらも、諦めず柔軟に美術と向き合ってきた作家であると感じた。

長年パートナーの陰に隠れてきた作家の大規模回顧展であり、ヴィデオ・アートの黎明期を振り返るのにも必見の展示だ。



挿絵:筆者
※展示作品をもとに描き起こし


参考:
・Viva Video!  久保田成子 展覧会公式図録/河出書房新社
・美術手帳 2021.8 女性たちの美術史 「Viva Video!  久保田成子展 キュレーター座談会」
・Viva Video!  久保田成子展 会場マップと解説


Viva Video! 久保田成子展
新潟県立近代美術館/2021.3.20~6.6(会期終了)
国立国際美術館/2021.6.29~9.23
東京都現代美術館/2021.11.13~2022.2.23
※詳細につきましてはリンク先の各美術館のHP等をご確認下さい。


筆者について
渡邊亜萌(美術家)
1993年神奈川県生まれ。
2016年明治大学文学部文学科演劇学専攻卒業。
2018-2019年度美学校『中ザワヒデキ文献研究』正規受講生。
2020年個展『強いAI』
参考記事:渡邊亜萌個展『強いAI』
Twitter: @amoe15821971


レビューとレポート第27号(2021年8月)

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