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サラワク先住民オラン・ウル(Kenyah)の「呼称」の話

今回のテーマはKenyahに関わることの中でも、「社会(コミュニティ)の立ち位置で変化する呼称」についてです。

これがまた面白いんですよ・・・。

具体的な解説部分と類似トピックは有料部分に入れますが、よければご購入を検討ください。(興味深い内容なので、仲の良い人や話に興味がある人にだけ、こっそりシェアしたい気持ちです。)

私がKenyahの人達*と一緒に暮らした期間はせいぜい合わせて7~8ヶ月ほどです。しかし日々の生活で彼らの言葉を耳にしているうち、個人の名前の前に敬称のようなものがついていたり、個人名を出さずに誰か特定の人について話しており、どう使い分けているのだろう、と疑問に思うことが幾度もありました。

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*注記)Kenyah(クニャ)は、マレーシアサラワク州の先住民族です。山の中で農耕や狩猟・漁撈をしながら暮らしている人もいれば、街へ出て普通に働いている人もいます。私のnoteでは、山の中で暮らす人達と寝食を共にして得た聞き取りが中心です。

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彼らはKenyah語を話します。

もちろん私は完璧には分からないのですが、分からないなりに少しずつ単語を聞き取り、意味を尋ね、身の回りで聞いた単語を集めたのが↓です。

Kenyahの呼称例

スタンダード

・~の女、転じて妻、彼女 leto~ルト
・~の男、転じて夫、彼氏 laki~ラキ
・~の父、または~おじさん amai~アマイ
・~の母、または~おばさん uwek~ウエ
・男の子 uyanウヤン
・女の子 budakブダッ
・同年齢の友人(性別を問わない)  tuyangトゥヤン
・男の子の父親 tamawing~ タマウィン
・女の子の父親 tamaping~ タマペン
・(自分の)祖父母  uko~ ウコ

プラスアルファ

・10番目の子供(男の子) ulok*ウロッ
*クニャ語の10(ulok)はマレー語の10(sepuluh)と似た発音で、そのまま「10番目」という意味です。あくまでウロはニックネームで、本名は別にあります。
・10番目の子供(女の子) sukon*スコン
*男性バージョンとは異なり、10番目の女性名「Sukon」は本名として使われる名前です。
・父が他界済みの独身男性 uyau ウヤウ
・父が他界済みの独身女性 (スミマセン、忘れました・・・)
・旦那さんが他界済みの奥さん balu~バル
・妻が他界済みの旦那さん ampang~ アンパン
・孫がいる人 pe/p~ プ、または人名の前にpをつけて発音する。
例:ケン→プケン、あけみ→パケミ
・2番目の子供が亡くなった 人(男女どちらにも使用)mawa~ マワ
・3番目の子供が亡くなった人 sawang~ サワン

(注:マワとサワン、数字が正しいかちょっとあやふやです。)


具体例で見てみましょう。

太郎という名前の男の子がいたとします。

太郎さんの子供時代、時に彼は名前で呼ばれず、両親や周りの大人たちから「uyan(ウヤン)」と呼ばれます。ニュアンスとしては「(そこの)少年」とか「(そこの)ボク」というような感じでしょうか。

そして太郎さんは成長し花子さんという彼女ができたとします。

すると太郎さんは、村のおばちゃん達からは「laki(ラキ) 花子」=「花子のオトコ(彼氏)」と呼ばれたりします。

では仮に太郎さんが花子さんと結婚し、娘ユミさんが生まれたとします。すると今度は周りの人から「Tamaping(タマペン)太郎」= 「(娘がいる)太郎」と呼ばれるようになります。と同時に、おそらくユミさんの友達からは「Amai(アマイ)ユミ」=「ユミの父」と呼ばれます。

そしてユミさんに子供ができると、今度は太郎さんはおじいちゃんになるので「Pe(プ)太郎」、花子は「Pe(プ)花子」かおそらく「Phanako(パナコ)」と呼ばれます(あくまで日本語名での例えです!)。意味は「(孫がいる)太郎」または「花子」です。

・・・少々ややこしいでしょうか?もう少し続けます。

仮にその後太郎が亡くなり、花子が残されたとします。すると花子の呼び名は「Balu(バル)花子」=「(未亡人の)花子」となり、未亡人だということが周りに伝わるようになります。

もし仮に太郎は花子と出会わず、ずっと独り身で暮らしていたとします。太郎の父が他界した後、仮にまだ太郎が独身であれば彼は「Uyau(ウヤウ)」または「Uyau 太郎」=「(父は他界しているが独身の)太郎」と呼ばれます。

なぜこの呼称が面白いのか

この例えで意味や面白さが通じたでしょうか・・・?

私が初めてこの呼称について知った時、とても面白いと思いました。

なぜなら、

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