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『フリークスアウト』


第二次世界大戦下のイタリア、毛むくじゃらの怪力男、磁石人間、電気少女、虫を操る男という小さなサーカス団が、ナチスによって収容所送りにされたユダヤ人の団長を救うために戦う物語。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』にドはまりしたので、ガブリエーレ・マイネッティ監督のこの最新作も楽しみに観にいった。

『ロスト・チルドレン』(大好き!)っぽいのかな、と勝手に思っていましたが、あそこまでの雰囲気はなく、戦闘力低めのX-MEN+炎の少女チャーリー+イタリアの歴史ドラマにちょっとエログロ足しました、といったところ。
(以下ネタバレ)


異形の人間を集めて超人軍隊を作るという妄執に囚われたフランツが今作の敵。潜在能力を引き出すためなのか、合理的とは思えない拷問を加え、使えなければ容赦なく”処分”してしまう。ユダヤ人や同性愛者だけではなく、障碍者をも殺害してきたナチスらしいやり方である。

6本指で徴兵検査に落ちて馬鹿にされてきたというフランツには同情も感じるが、ピアノ演奏という自身の特性を生かした活躍にができているのになぜ…とも思ってしまう。できることとやりたいことが違うというのはよくある悲劇でもある。

フランツは予知能力があり、ナチスの敗北が見えているのに信じてもらえない、という焦りが暴走に拍車をかける。そもそも予知した異形の4人(ファンタスティックフォー!)が救世主になるというのは予知夢(幻視?)の都合のいい解釈でしかないというのには気づけないのもフランツの認知のゆがみの表れだろう。総統の自殺だけでなく、iPhoneやゲームのコントローラー(プレステだろうか)までという予知能力の表現は面白かった。エンドロールにも流れていて、こんなところにジーグ!と嬉しくなる。

ただ、クライマックスは、それまでの描写に比べてあっさり大味な印象。マティルデの能力が暴走しているから、すべてを燃やせ!になるのは仕方ないのかもしれないけれど…。

街を襲う空襲、ユダヤ人を列車に詰め込んでドイツに向かう列車やナチスに立ち向かうパルチザンなど史実を踏まえたシーンも多く、そこだけ見ると史実ドラマのようにみえる。特にナチスによるユダヤ人の連行が生々しく、他の残虐な場面よりも見ているのがつらくなる。スーパーパワーで彼らを救ってほしい、悲惨な現実を変えてほしいという祈りにも似た気持ちになる。居合わせた女性がとっさに赤ん坊を救うシーンが挟み込まれ、力を持たない普通の人にも誰かを救うことができるというメッセージにも思えた。


鑑賞日:2023/5/18

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