ある一人の大学生の1日の切り取りとエッセイ。
今日は少しだけ遠いところへ行く。
遠いところと言っても、電車に揺られれば着けるくらいの場所である。
私のカバンの中にはカメラと本を入れてきた。
目的地で写真を撮る用と、行きと帰りの読書用だ。
選んだ本は『ペンギン・ハイウェイ』。
選んだ理由は…何となく爽やかな気分になれるのではないかと思ったからだ。
栞はいつだか香水屋さんでテスターに使った少しだけ厚い紙。香りはもう消えてしまったようだ。
読書のお供に何か聴こうかとイヤホンを挿し、調べてみるとペンギン・ハイウェイのオリジナル・サウンドトラックがあった。
サウンドトラックの曲をランダムに聴きながら電車に乗る。
音楽が小説と絶妙に組み合わさって、するすると滑るように文字を目で追うことが出来る。
電車は窓が開けられているので風がよく通る。
前髪が揺れた。
ビルだらけだった車窓の景色がどんどん緑になってくる。
もう目的地は近いようだ。
目的地近くになると乗り過ごすのが怖くて、本に集中できなくなる。
もうこれくらいで終わりにしよう、と思う。
栞を挟む。
ところで、もうお気づきの方もいるかもしれないが私は今、目的地に向かう電車には乗っていない。
帰りの電車に乗っている。
今日1日の心地よい疲労感を感じながら、行きの電車で感じていたことを言葉にしているのだ。
自分のこととはいえ、今現実に起こっていないことを文章化するのはなかなか難しいものである。
ただ帰りの電車も窓は変わらず開いていて、日中の活動で崩れた前髪をさらに乱すように風が通っている。
19:30。
この時間の電車は普段なら帰宅ラッシュに巻き込まれていそうだが、ゴールデンウィークだからかそれとも自粛からか人は疎らだ。
電車内に座れない人がいないので、安心して座っていられる。
いつも自分が座っている時に立っている人がいると譲らなくてはいけないと思い、なんだか申し訳なく思うのだ。
そんな気苦労もなくnoteをおもいのままに書ける帰り道。
なんて贅沢な時間だろう。
今日一日の出来事に想いを馳せ、家へと向かう今現在の私である。
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