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私はインターネットの届かないアメリカの田舎に住んでいる。パンデミックは私をかつてないほど孤立させた。

パンデミックの中で、インターネットにアクセスできなかったら?オレゴン州でネットのない生活をしてきた教育者でフリーライターのカリエ・ファゲットが、2020年4月9日にオンラインマガジンのVoxに寄稿したものを、日本語訳した。
原文: https://www.vox.com/first-person/2020/4/9/21214105/coronavirus-internet-rural-america

私はインターネットの届かないアメリカの田舎に住んでいる。パンデミックは私をかつてないほど孤立させた。

〜図書館や公共空間が閉鎖され、インターネットに
アクセスできない人々は取り残されている。〜

カリエ・ファゲット
2020年4月9日

タコベルの駐車場に停めた車の中で、これを書いている。何時間も停めているので、店の従業員が、ガラス越しにこちらを伺っているが、あまりに何度もそうするので、どれぐらい頻繁にこちらを見たかはおぼえていない。気づくたびに、私の体は少しだけ、座席をずり下がって隠れようとする。ここにいたくない。みっともないなぁ。でも、家にはインターネットがなくて、公共のWi-Fiなしでは、仕事ができない。

人口1,169人のオレゴン州ドレインに引っ越したのは、小さな農場を買うのが夢で、ここなら大きな町より土地が安いから。アメリカの田舎ではインターネットに不自由があることを、引っ越すまでは知らなかった。

たとえば、ドレインでインターネットをするには、サテライト衛星、ホットスポット、光ファイバーがある。衛星とホットスポットを試したが、家の周りを囲むベイマツの森に信号を遮断される。できれば安定した光ファイバーを利用したいが、私の土地は鉄道の線路の裏側にあり、そこにインターネットをひこうとすれば、会社に払い戻し不可能な1,500ドルの申込金を支払わないといけない。しかもその会社は具体的な見積もりも出さずに、「高額になる」とほのめかす。ただの賭けで1,500ドルを出す余裕は、私にはない。

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これは私だけの話ではない。アメリカでは3300万人がインターネットなしで暮らしていて、そのうち15%が農村部に住んでいる。インターネットを持たぬ人の34%は、単にインターネットそのものを不要だと考えている。しかし、32%は「(インターネットは)使うのが難しい」と感じていて、19%は私のようにお金のない人たちだ。

40歳のJB ブラウンは、バージニア州の人口537人の小さな町ミネラルにに住んでいる。彼は退役軍人で自分で事業を営む。彼も自宅でインターネットに接続できない一人だ。利用可能な衛星サービスが「不安定でまばら」な地域で「高額な超過料金を払わないかぎり、通信が一定容量を超えると、ネットの速度が低下する」サービスしかないために、彼と妻と4人の子供は、3年間インターネットのない生活をしている。信頼できない会社のプランに金を払う価値はないと言うが、彼はネットがないことで、ビジネスの出費がかさんでいる。「入札や契約にオンラインプラットフォームを使い、タイムリーに行えないために、2万ドル以上は仕事のチャンスを逃しているはずだ」と話していた。

コロナウイルスが大流行直前に、多くの人はNetflix、自宅からのリモートワーク、食料品のオンラインで注文などの変化に適応を始めていた。その頃ネットにつながらない私たちは、少し違ったライフスタイルに適応していた。図書館の中からフリーランスの仕事をし、ものを書き、DVDをみてゆっくり過ごすのが日課となった。人のいないスーパーで、ゆったりと商品陳列棚の間を練り歩いて独り占めにする。ちょっとオールドスクールな楽しみ方を覚えたのだ。JBの妻ヴァネッサは、修士号の大半をスマートフォンでこなした。インターネットを持たぬ人たちは、そんな風に過ごしていた。

私の場合、ネットとの接点は前パンデミック的だ。仕事をする日には、ドレインより電波の良いコッテージ・グローブの図書館まで、15分ほど運転して通ったものだ。運がよければ、窓際でコンセントのあるテーブルが空いていて、気に入っていた。店の営業時間外に仕事の締切のあるときは、24時間Wi-Fiのある駐車場で仕事をした。駐車場の車の中で仕事をするのは快適ではなかったし、ネットも安定しないから気も散るものだ。JBと同様、インターネット接続が不安定だと、私もお金がかさんだ。

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しかし、ネット利用のために通っていた図書館や店が閉鎖されて、今までよりどころとしていたものはすべて奪われた。DVDを借りることも、図書館出勤も、食料品店の通路を散歩するのも、しないほうが良いことばかりだ。

皮肉なことに、行き場が閉鎖された途端、もともとインターネットにアクセスできない人々には、今まで以上にそれなしで暮らすのが難しくなった。エッセンシャルワーカー以外の従業員で、オンラインで働くことができない場合、彼らは収入を失う。学生なら、Zoomでクラスメートと合流できず、一学年遅れを取る。ワークアウトやエクササイズ、セラピーはオンラインで行われ、オンラインショッピングは、いまや最も安全な選択肢と考えられている。

しかし農村部の人々—そして低所得者層は—取り残されている。シェルターなどの施設に暮らす子どもたちには、学校が義務づける機器の配布はあっても、ネットがなければ学校の勉強はできない。オレゴン州オールバニーにある公立図書館の図書館助手を務めるアテナ・ラトス (25歳) によると、同郡に住む20%の人はインターネットを利用できず、ネットサービスのために図書館に来ているそうだ。「図書館の閉鎖が、私たちのコミュニティに暮らしている人々—低所得かつ社会的なセーフティーネットから外れている人々—の生活には大きく響いている。(コロナウィルスの世界的流行が始まって以来) 無料wifiにつなげるために図書館の駐車場に車を停める人が増えたが、車のない人にはお手上げだろう。」

最新の景気刺激法案では「対象となる農村地域でブロードバンド・サービスを提供するために必要な施設や設備の建設、改良、取得」に向けた約1億ドルの助成金が含まれているそうだ。私やJBのようにもともと圏外だった個人が、その恩恵が受けられるのかどうかはわからないが。

たまにネットがつながったときに、パンデミックの中でも人々がヴァーチャル空間でも工夫をつづけているのが垣間見えて驚く。互いに歌を歌い、詩を読み、無料のヨガ教室を開いている。人間には回復する力と創造性があり、おたがいにつながりを持とうとしていることがわかり、感動的だ。私も参加できればいいのに。

この世界的流行は、インターネットへのアクセスの重要性を、これまで以上に露呈した。私の望みは、米国政府が将来的に障壁を取り除き、すべての米国人がかんたんにインターネット接続をできるようになることです。その日が来るまで、私はオレゴンの田舎のファストフードの駐車場に身を潜めながらWi-Fiの電波の立つ場所を探すだろう。「タイガー・キング(※)ってなんだろう?」と考えながら。

※Tiger King(タイガーキング):Netflixオリジナルの犯罪をテーマにしたミニドキュメンタリーシリーズで、2020年3月20日に公開された。

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著者カリエ・ファゲットについて(以下は著者HPから抜粋)
バージニア州で生まれアラバマで育つ。現在はオレゴン州のドレイン農場で暮らしながら執筆活動をしている。高校中退者で美術に長けている。南アラバマ大学でクリエイティブ・ライティングの文学士号を、オレゴン州立大学でクリエイティブ・ノンフィクションの修士号を取得。フリーでの執筆、Economic Hardship Reporting Projectへの寄稿、Random Sample Reviewの共同創設者、Split Lip Magazineの自叙伝読者。夏はオレゴン州やワシントン州の子どもたちに野外でのサバイバル技術を教え、農園の世話をしたり、代用特別教育助手もしている。作品の多くは夫が戦争で負傷し、処方されたオピオイドの過剰摂取後に亡くなったことに影響を受けており、現在は回想録執筆をしている。女性の問題、旅行、農業生活、社会正義についての執筆活動も多く、記事はThe Washington PostVoxThe RumpusNarrativelyHuffpostEntropyCosmonauts Avenueなどで読むことができる。
★著者が書物をするときに使うSpotifyのプレイリスト: https://open.spotify.com/embed/playlist/2X9m3L98m21xjAOvEc9kcz

写真の解説
・ヘッダー:オレゴン州のドレインにある著者の暮らすキャンピングカー
・ヤギが車に乗っている写真:著者がドレインの小さな農場に越したとき、インターネットがあまり通じないとはしらなかった。
・焚き火の写真:著者のボーイフレンドと動物たち。キャンピングカーの窓越しに撮影。(以上3点はKarie Fugett本人による撮影)
・著者近影(写真提供: Leah Nash)


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