濱本恵美の日記【18歳高校生】
目覚ましが6時半に鳴る。
部屋のカーテンを開けて太陽とご対面。トイストーリーに出てくるアンディの部屋の壁紙程度に疎らな雲があるけど十分な晴天だ。
部屋に入る日光に目を細めるが、これはまだ寝ぼけているからなのか、太陽が眩しくてなのか、どっちつかずの顔をした。今思えばミスチルの桜井さんの歌唱中の顔というのがいい表現だと思う。もっと詳しく言うとサビの桜井さん。「もう一回もうイッカーーーイ!」の顔。恥ずかしい。
電車に揺られる。
家から学校までは約40分かかる。家から最寄り駅まで徒歩約8分。電車の乗り換えはなく一本、約23分。学校の最寄り駅から学校まで徒歩約5分。
私と同じ中学だった人はほとんど自転車通学だけど私は電車通学。理由は単純明快で、疲れるから。ただそれだけ。
教室に入ると何やら視線を感じる。振り返ると大垣空がニヤニヤこちらを見ている。大垣空は同じ吹奏楽部で、パートは違ったものの仲が良い。まあ私が思っているだけかもしれないけれど。
「終わった。」ニヤついた顔継続中の空が言う。
「何が?」私は少し重心を後ろに置き問いかけた。
「テスト!昨日の大学が最後だったから空の受験勉強終了!」空は図書館だったら確実に怒られていたであろうまあまあな声量で嬉しそうに言ってきた。
「お疲れ。でもまだ結果出てないんでしょ?」労りの言葉を置き、現実を突きつける。
「そうなの。もうテストないからホッとはしてるんだけど、まだ緊張してる」困った顔して空は言う。
私はここで同情することはしなかった。なぜなら一般受験をしていないから。ここにおける同情は虚言になるから。そこで私の出した答えは、
「定演くる?」
話題を変えることだった。
空は「っあ、行くよ!その頃にはマイもミクもテスト終わってるらしいから一緒に行くつもり!」と先程までの疲れた顔が嘘のように明るさを全面に出している。
「もう定演まで時間ないのに合奏になるとガタガタで結構やばい」と私は完全に定演の話一色にした。
すると空は「そうなんだ〜」と呆気なかった。
「そこは空ちゃん吹部だったんだから同情しないと!」と私は心の中で思った。
放課後。
今日は合奏練習がメインだ。校内に演奏を響かせる。低音は言うほど響かないからトランペットを中心に金管楽器の人たち響かせるのは任せよう。
1回通しでの合奏が終わると、顧問の河原先生が「大丈夫ですか?定期演奏会は再来週ですよ」言葉遣いは優しいが強張った表情をしている。
続けて「今日の合奏に意味はないと思いますので、練習内容をパート練習に変更します。今週の金曜日に再度合奏練をしたいと思いますので、それまでに各々パートごとに仕上げておいてください。定期演奏会は大会ではないですが、皆さんの親御さん、お友達、来年の入学生は今のような演奏をして何を思うでしょうか?わかりますよね?それでは、金曜日の合奏期待してます」
部員全員ぐうの音も出なかった。ここまで正論を並べられると自分たちが不甲斐なく感じてしまう。
音楽室を後にすると優奈が「先生絶対に言う言葉用意してたよ」と言う。
「どういうこと?」と私が言うと間髪入れずに優菜が「文章がまとまりすぎてて、一回文字に起こしてるとしか思えない」
「さすがにそれはないでしょ?」
「あるね。私だったら絶対にあんなにうまく喋れないもん」
自分基準で何事も考える優奈の性格はだいぶ難があるけど、一貫性があって清々しくもある。だから私は、
「wordでカタカタやってるのかなぁ」
乗っかることにした。
そんなことより定演がやばい。
定期演奏会まで残り13日。
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