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昭和のミキサー

家電機器の経年劣化

ここ2〜3年のことだが、我が家の家電機器に次々と不具合が生じている。どれもこれも耐用年数が来たかそれを越したものばかりなので、機械物の常として経年劣化を起こしたことが原因だ。

とにかく最近の家電機器はそれぞれに〝頭脳〟を持っており、時に人間の言葉をしゃべり、人間以上の確実さで火加減や作動時間を調節している。

為にその疲労度たるや我々の想像を遥かに超える重労働をしている事になって、寿命も短いのであろうか。おかげで人間の寿命は延びる一方である。

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勇退が続く我が家の家電諸氏たち

あの東日本大震災の日。帰宅してみると特に台所が惨憺たる状況だった。

電子レンジや炊飯器は1メートルほどの調理台から床に墜落し、棚のものは殆ど落下していた。

墜落したものは壊れただろうと思い、持ち上げようとして驚いた。炊飯器はタイマーを仕掛けておいた時間に、斜めになったまま水に浸かっている部分だけがちゃんとご飯になっていたのだ。

これは自らの仕事への責任感が相当強かったのだろう、見上げたものだ、と感じ入った。その謹厳実直な炊飯器氏も、昨年、堂々と勇退した。

墜落の難を免れた電気ポット氏は、やはり炊飯器氏と機を同じくして、自ら引退の道を選んだ。電子レンジ氏だけは昨年、オーブン機能のみ使用できなくなったがレンジ機能はまだ立派に働いている。

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我が家の長老・ミキサー翁

しかし、その他の家電機器はそろそろ耐用年数が来て、業務から解放される日を虎視眈々と狙っているようだ。そんな中、大した長老が存在している。

国内の某大手メーカー(名前は伏せるが、TV「サザエさん」のスポンサーだ)のミキサー翁である。生産されてから69年。最近は春・秋のお彼岸の時期だけの年2回勤務ではあるが、矍鑠かくしゃくとしたものである。

耄碌もうろくなどしていない。茹でた小豆を見事に粉砕してくれるので、我が家のこし餡おはぎには無くてならない家電機器の現役大長老である。

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日本で〝ミキサー〟が流行ったワケ

国内産ミキサーは昭和27年7月に東京芝浦電機(現・TOSHIBA)から発売された。初生産は昭和23年ということだが、戦後間もなかったこともあり需要は少なかったようだ。

ところがアメリカのハウザー博士による「若く見え長生きするには」という、生ジュースの効果をうたった著書が日本でベストセラーになった昭和27年頃からミキサーの需要が急速に高まった。

我が家の長老は昭和27年生産のMX-1形で、台座のプレートにその型式を今でも見る事ができ、翁の輝かしい履歴を物語っている。

我が家に来た時期は定かではないが、後継機種のMX-2形の製造が昭和29年とのことなので、遅くとも昭和30年頃には新しい物好きの父が台所へ運んでいたのではなかったろうか。思えばミキサー翁と私とはほぼ同年代なのである。

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自分自身も経年劣化? 

このところ、ふとした不注意で膝を痛めたり、無理がきかなくなったり、物覚えが悪くなったりと経年劣化が目立ってきた私としては、年2回の勤務とは言え、立派にその責を果たしているミキサー翁を見習ってせいぜい仕事に精を出し、現役を続けなければ、と思うこの日頃なのである。

(国産ミキサーの製造年等は、「レファレンス協同データベース」を参照)
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000060405
('21.6 現在)

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文責・写真 : 大橋 恵伊子