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二河白道のたとえ

「特別展 法然と親鸞 ゆかりの名宝」展

今から丁度10年前の2011年10月、上野の東京国立博物館において「特別展 法然と親鸞 ゆかりの名宝」という展示が行われた。

本棚の整理をしていて、その折の図録が出てきたので思い出した。その年は法然上人の800回忌、親鸞上人の750回忌にあたり、法然と親鸞ゆかりの名宝を一堂に集め、その全体像を通して、二人の生き方や魅力を紹介しようと企画されたものだった。

法然の生きた平安時代末期には、戦乱や地震などの天変地異が続いていた。
末法思想が広まり、政治は民衆を顧みることなく社会は混迷していた。

民衆は塗炭とたんの苦しみに喘いでいた。法然は万民を救う道を六字名号ろくじみょうごう(南無阿弥陀仏)を唱えることで誰でも救われると説き、法然より40歳年少の若き頃の親鸞はその教えを受け、それを信じて念仏行を行うことを決意したのだった。

折しもその年の3月11日に、あの東日本大震災が発生していた。社会・政治の混乱により、〝社会の転換期〟ともいえたこの時期に、法然800年忌、親鸞750年忌を迎えた訳であったが、この展示はその意味からも非常に興味深いものだった。

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ニ河白道にがびゃくどうのたとえ」とは

数ある展示物の中で、強く記憶に残っているものがある。それは「ニ河白道図にがびゃくどうず」だった。

ニ河白道にがびゃくどうのたとえ」は、法然の著書である「選択本願念仏集せんちゃくほんがんねんぶつしゅう」の一節に書かれている。

阿弥陀如来の誓願を深く信じて念仏を唱えることで、現世の苦から逃れ、浄土に迎えられると信じることの重要さを例えたものだ。

その例えの部分の要旨をご紹介しよう。

長い道のりを西に向かう旅人が歩いていると、突然目の前に二つの河が出現する。南には火の河、北には水の河。二つの河幅は果てしない。その間にわずか幅が四〜五寸(12〜15センチ)ほどの一筋の白い道があるのみだ。

白い道には南北から火と水が迫り、東へ引き返そうにも盗賊や恐ろしい獣が迫っている。それらを避けて生き延びるには、その細い白い道を通るしかないが、あまりにも細くて、心もとない。

その時、東の岸からためらうことなくこの道を進めと声がする。と、西の岸からも躊躇ためらわずにまっすぐに来れ、と叫ぶ声がする。この人は、東と西からの声に励まされ、脇目もふらずにその道を信じて進んだところ、間も無く西の岸に無事、辿り着くことができたのだった。

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その説くところは・・・

火や水や盗賊や獣などは、人間の心に起こる怒りやむさぼりの心や憎しみをたとえたものだ。むさぼりや怒りの心は盛んなので、水や火にたとえられる。

また、東の声は現世の覚者、西からの声は阿弥陀如来の声とされている。

そして何かをする時、真っ当な正しい心を持ってすることはなかなか難しいものだ、ということをも伝えてくれているのだ。

なしがたい事よりは楽な方法を、また、つい自分の有利・不利を考え、それを優先しようとしてしまうのが、私たちの正直な心なんだと思う。

しかしその中にもほんのすこしだけ、微かながら、真っ当な正しい心も存在しているとしてたとえられるのが、この幅四〜五寸ほどの白い道なのである。

しかし、火と水が荒れ狂う河の真ん中の、僅か四〜五寸ほどの道を行くには勇気と信念と覚悟が必要になる。

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せめて凡人としては

つい目先の利に走りがちな私たちの心。どうしたら有利な取引が出来るか、どちらに味方すれば自分の為になるか、という気持ちは心の深層に常に働いているのが人間というもだと思う。

つい目先の利に走りがちな私たちの心。どうしたら有利な取引が出来るか、どちらに味方すれば自分の為になるか、という気持ちは深層に常に働いているのが人間というものだと思う。利を求める前にまず優先すべきものがあるように考える。

〝人の心にある義〟の思い。他人を思いやる心。たとえ自分が損をすることになるとしても、〝人の道〟を外すことはやはり心の負担になる。
〝良心〟と言い換えても良いかも知れない。それが細い一本の〝白い道〟なのではないだろうか。

この世には避けては通れない争い事、迷う事などは常にある。その中にあって、たとえ通るには(実行するには)困難であったとしても〝白い道〟は必ず存在しているのだと思いたい。

通るには大変だが、たとえ通れなかったとしても、〝白い道〟がある、ということを思って過ごしていきたいと考える。信念をもって、信じる心をもって何事にもあたり、人生を生きられたら素敵だと思うのだ。

何かを行おうとする瞬間、ほんの一呼吸でも良い。これを信じることが出来るか、と自問する余裕をせめて持ちたいと思うのである。

と、口にするは易いことだ。先ずは、自分の心にも正直な心、まっとうな心が僅かながらでもある、ということを信じることから始めるとしようか。

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文責・写真 : 大橋 恵伊子