夜半のメルヘン③〔R18有料作。ただし本日いっぱい全文公開いたしております〕

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狼と猟師とお菓子の家3完結~R18流血あり、童話もどき、殺人あり


 赤い狼が追ってくる。
 アタシを食いに追ってくる。
 何でよ。
 アタシが何したっていうのよ!
 悪いのは全部に一ちゃんじゃない!
 に一ちゃんどこ!
 アタシを助けなさいよ!
 いきなりばんっと何かに当たった。
 見えない壁!
 行き止まりだ。
 狼がくる!
 来る!!
 見えない壁の向こうに、中年の男が見えた。
 手に鉄砲を持っている。
 猟師!
 こっち見て。
 銃ならこの壁壊せるかもしれない。
 こっち見て。
 あいつ撃って。
 アタシあげるからあいつ撃って!!!!!

 ずがああん!
 銃声がして、俺の躰が熱くなる。
 撃たれた!
 見えない壁は…
 そうか。
 壁は、悪意のない相手には効かないんだった。
 六人助けた。
 後一人だった。
 後一人助けたら、俺は、もとの姿に戻って、今度はまっとうに暮らすんだ。
 血が滴る。
 毛皮が変化して、皮膚に戻ってゆく。
 嬉しいな。
 とりあえず、人としてだけは死ねる…らしい…

 狼は男の人になって死んだ。
 美しい顔立ちの人。
 高貴な生まれなのかもしれないけど、今となっては何もわからない。
 猟師はへたり込んでる私を立たせてくれた。
 貧しい、洗いざらしの服。
 でも瞳はに一ちゃんみたいに澄んで優しかった。
「オラとくるか? 汚ねえうちしかないども」
 立たせるために取った手を、表返してアタシの手のひらを見る。
「肉刺の手だ。足も肉刺だらけだ。働き者だな。そういうやつ、えらい」
 汚い歯で笑う。
 でもそんなに、いやな気分じゃない。
 そうなのか。
 肉刺は、手は、足は…
 思い至ったその時、突然猟師は頭を抱えてうずくまった。
 血だらけの頭。
 背後に立ってたのは、肉切包丁手にしたと一ちゃんだった。
「クソ猟師! 汚ねえ手で触んな」
「何にもされなかったかい? まだ初物かい?」
 か一ちゃんがアタシのドレスをたくし上げる。
 この人アタシを助けてくれたんだよと、言いたいのに声が出ない。
 顔見知りでも何でもない人が、アタシを助けてくれて、なのに親は、その人殺して、アタシの躰が無垢かどうかだけ気にした…
 嫌だ。
 嫌だ。
 嫌だ嫌だ嫌だ!
 アタシは叫んだけど、声は誰にも届かなかった。


 アタシは家に連れ戻された。
 に一ちゃんの客で、女でもいいやつは続いて、女じゃやなやつは離れていった。
 女に大金払うやつは少ない。
 だからうちはかなり貧乏になり、と一ちゃんは毎日イライラしてる。
 か一ちゃんはめげてない。
 今朝か一ちゃんはアタシに言った。
「赤ちゃん授かったよ。だから十年頑張っとくれ。十年後にはこの子が」
と、自分の腹をぽんと叩く。
「あたしら食べさせてくれるさ」
 に一ちゃん…
 に一ちゃん言ってたの、こういうことだったんだね。
 アタシたち、ちゃんと逃げなきゃいけなかったんだね。
 でも、もうわかった。
 今度はアタシ、あいつ守るから。
 生まれて来る子が男でも女でも、アタシ必ず連れて逃げるから。
 約束するから。


         *


 森の奥の小屋の奥で、肉片が徐々に集まってきている。
 血糊も、髪も、爪も集まる。
 人の形に集まって、それは一人の老婆になる。
 老婆は僕。
 家も変わる。
 普通の荒ら屋からお菓子の家へ。
 僕はあのひとの呪いを引き継ぎ、正しい魂を七つ救うまで、安息の日は訪れない。
 なら僕も、狼に変わるのだろうか。
 銀の狼は善の狼。
 赤の狼は悪の狼。
 僕はどちらになるのだろうか。

               完
  

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それでも地球は回っている