キューバからの来客


正月明け、我が家に夫の友人であるキューバ人のチノがやってきた。夫からどういう人かは聞いていた。とにかく、キョーレツな個性だがいい奴だ、と。


写真を見る限りでは気のいいおじさんといった雰囲気なのだが、キョーレツな個性とは枠が広すぎて、想像すらできなかったのだが、とうとう彼はやってきたのである。

印象としては、芸人のFUJIWARAの原西のようなリアクションで、時々ジミー大西も入っている。マシンガンのように、スペイン語を喋るので、まったく何を言っているのかわからない。英語は話さないので、夫の通訳、もしくはジェスチャーのみでの会話となる。

チノは、我が家を大変気に入り、なぜか仏壇に感動していた。日本人のように気を遣いすぎるわけでなく、至っていつも通りといったかんじの様子でリラックスして、とてもおしゃべり好きでこちらを緊張させない人である。


夫の通訳のもと、わたしは軽く、日本はどう?と聞いてみた。

「日本は今、元気がない!昔のような元気を取り戻せるはずだ!」と、日本経済のことについて語り出したのである。なんとなく日本の外観的な印象をさらっと聞いたはずだったが、思いの外深い話になってたじろいだ。
それから話題はアジア諸国のことからアメリカとの関係性、国際情勢まで話が及んだ。社会主義国のキューバで生まれ育ったチノには、国を出るといろいろな面で感じることがあるのだろう。


しばらくして、かすかな異変に気付く。普段、日本人離れした個性を放ってるはずの夫が、チノがいることで薄まってみえるのである。

マシンガントークを繰り返すチノに対して、冷静に対処している夫が、物静かな典型的な日本人に見えてくるので、わたしは何度も目をこすった。

日本にいたら浮く存在の夫だが、キューバ人がいるとまるで浮かないのである。

お昼は義母も加わって、一緒に昼食をとった。そしてここでも異変に気付いた。


義母は天性のラテン気質(京都生まれの生粋の日本人である)なので、昨年メキシコ人の友人が来た時も、そのラテンノリを炸裂させ、メキシコ人が若干押され気味になったほどの人である。それがチノを目の前にしたら、義母の個性がどんどん薄まり始め、夫同様、日本人中の日本人という趣になっていた。
この親子を大人しくさせるチノとは、尋常ではない個性の持ち主である。


逆に普段大人し目の息子のエネルギーが回り出し、部屋中を駆け回り、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

チノに、「すごい元気な子供だ、エネルギーがすごい!」と言わせたほどである。

息子の奥底に潜んでいた何かを、チノが開花させたようだ。


つづく

2019.1.29『もそっと笑う女』より


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