ずっこけ盆踊り放浪記②


いざ現場に到着すると、すでに賑わいをみせていた。
音源はテープではなく、ちゃんと櫓が組まれ、お囃子が鳴り響いている。

三味線や太鼓や笛、唄い手の声。心が震える。
昔からなぜかお囃子の音を聴くと、じいんと胸が詰まる。
いい、これは、いい!

遠巻きで輪の群衆を眺めながら、様子を伺う。夫はやはりグラサン越しに見つめ、「ちょっとそこまで飲み物買ってくる」と言って最寄りのコンビニへ向かっていった。

さて、輪の中に入ってみようじゃないかと思った瞬間に、お囃子が止み、小休憩となった。
夫はコンビニに行ってるし暇なので、近くにいる人にインタビューしてみようと片っ端から声をかけてみる。
カメラクルーはいないが、ナチュラルにロケを決行。(言っておくが誰に頼まれてもいない)
まずは一人で来ているお姉さんに声をかける。滋賀県からお越しで、毎年岐阜まで徹夜踊りも参加するほど郡上ファンらしい。
滋賀県ならば、江州音頭の発祥地である。個人的に一番好きな踊りなので「江州音頭も踊られるんですか?」と前のめりに聞くと、
「いや、興味ありません」と即答。郡上しか興味がないのだそう。

二人目は郡上おどりに参加する人にしか着られないようなお揃いの浴衣を来ている女性に突撃。
名古屋から来られていて、もちろん徹夜踊りにも毎年参加。宿は取らず(というか、宿はどこも一年前から埋まっているので中々取れないのだそう)、徹夜踊りが終了する朝方に電車で帰るのだという。

本場岐阜から来られている年配の女性にも声をかけた。
当方初心者です、と挨拶すると、徹夜踊りに最初から参加するのは大変だから、まずは徹夜踊り以外の比較的空いてる郡上おどりに参加されてはどうですか、とアドバイスを受けた。
聞くとここでひと踊りしてから途中で抜け、あるアーティストのライブに行くのだそう。中々元気なご婦人である。

そうこうしてるうちに夫が戻ってきた。インタビュー終了である。
夫は静かな顔で缶チューハイを開けた。そしてこれから踊り倒す気満々の私にミネラルウォーターを差し出す。この日気温は三十度近くまで上がっていた。気が利いているじゃないか。

小休憩が終わり、再開しますとアナウンスが入る。
「踊りにいこう」と声をかけると、「いや、荷物もあるし、ここでゆっくりしとく。踊ってきていいよ」と夫。確かにこの大荷物を抱えながらは厳しいし、置いておくわけにはいかない。

キンキンに冷えた水を一口飲み込み、再開した輪の中に、いざ飛び込んだ。

つづく



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