タクシードライバーについて熱く語る男。


映画’タクシードライバー’を見終わった夫に、

「どうだった?」と聞くと、


「いや、あれは、、あの終わり方はどうも納得いかない。’バードマン’(メキシコ人監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの映画)と似すぎている!」と、興奮気味の夫。


夫の推測では、バードマンもタクシードライバーも、結末が死後、主人公の空想の世界を描いたものである、ということらしい。


「絶対にバードマンの監督は、タクシードライバーを意識してる!そうだとしか思えない!」

その日から、夫は帰宅するたびに、

「タクシードライバー観た?」と聞いてくるようになった。


わたしの見解を知りたいようだ。


正直タクシードライバーやデニーロ、マーティンスコセッシに思い入れも何もないわたしにとって、どうでもいいことだったのだが、あまりに執拗に聞いてくるので、ツタヤ返却日の前日、子供を寝かしつけて、眠たい目をこすりながら、一人タクシードライバーの鑑賞をした。

鑑賞後、ちょっとめんどくさい仕事が終わった、、と思っていたら、飲み会終わりの夫が帰宅した。


そそくさと二階に上がろうとしたら、夫は例の結末のシーンについて、議論してきた。酒が入ってるので、余計に白熱して、正直とても面倒臭い気分になった。


「このシーンを観てくれ」と執拗にコマ送りで解説し出す夫。


「この設定で、このセリフ、そして最後のこの映像!おかしいやろ!」


興奮する夫に、


「ちょっと待って。このシーンというよりも、実は全編通して、主人公の妄想であったという考えは?」と切り出すと、


夫は、はっとした顔をして、

「、、それは有り得るな。この主人公はベトナム戦争の帰還兵で精神が病んでる設定や。スコセッシはそういう彼らの悲痛な叫びと妄想を映像にしたかったのかもしれん」


しかしまた後で、「やっぱりこの最後のこのシーンが納得いかん。観て、これ。人が透けてるやん!」と、心霊現象的なシーンにえらい引っかかっていた。

眠気と夫の酒臭さと、白熱する議論に頭がくらくらとなり、


「もう創作の意図は監督のスコセッシにしかわからんやろ、スコセッシに聞いてくれ!」と、わたしは話を終わらせた。


ちなみに飲み会帰りの夫の格好は、軽いモヒカン、サングラス、モッズコートであった。



2018.3.5『もそっと笑う女』より

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