初めての体験、競馬編。


人生で初めての体験を二度した。

一つは競馬だ。


競馬自体に興味はなかったけれど、競馬場に行ってみたくて、義母と息子を誘っていった。

夫は幼少の時に、父親に散々連れられていた思い出があり、「まったく行く気がしない」とのこと。


京都競馬場、菊花賞の日であった。


競馬場の横に広場があり、たくさんの遊具があるので、びっくりするくらいの親子連れで賑わっていた。

息子も大喜びで駆け回っている。
義母に子守をお願いし、とりあえずぶらりと馬券場にいってみる。

新聞紙を敷いて座りこみ、ビールやらワンカップやらを飲みながら、赤ペン持って競馬新聞をにらみ、あーでもないこーでもないと言っているおっさんだかおばさんだかわからないような人たちで、カオスになっていた。

ワンカップを持っているおっさんたちの目は、明らかに座っている。

馬券の買い方もイマイチよくわからないので、とりあえず今から始まるレースを見に行き、頭の中だけで「何番が来そう」などと予想しながら見守っていた。

ゲートが開いた瞬間、競馬場にいる大人たちが「いけーーーーい!」と、血眼で一斉に叫び始めた。

馬、勝負、金だけしかない異様な空間だ。

レースが終わると、頭を抱えるひと、満面の笑みの人、あきらめたような顔の人、顔には出さない極めて冷静な人、酒飲んでいびきかいて寝ている人たちなど、様々である。

わたしが予想だけしていた馬が一着できたので、その瞬間に馬券場に向かって、菊花賞の馬券を買うことにした。
気のよさそうなおっさんに声をかけると、何から何まで丁寧に教えてくれて、5分くらいで馬券が買えた。

馬券を握りしめて広場に戻った。
息子はおままごとに夢中である。

「お義母さん、馬券買ってきました!」と、さわやかに義母に伝えると、

「わたしも買ってくるわ!」と、非常にフットワークの軽い義母は馬券場に走っていった。

菊花賞のファンファーレが競馬場に鳴り出すと、どよどよと歓声があがり、ものすごい拍手が場内を包んだ。
競馬ファンの競馬へかける情熱みたいなものを感じ取る。

お金がかかっているので、夢中で馬を応援した。

颯爽と駆け抜ける馬の美しさと、馬券を握りしめて、血眼で叫ぶコントラストがなんとも言えない。
さっきまで死ぬほど遊びまわっていた息子は、馬なんて御構い無し、白目向いて夢の中に入りつつあった。


結果は惨敗であったが、これは馬のことをもっと勉強して予想しないと、競馬自体を楽しめないなあと、帰り道で思うのであった。

こんな見学のような買い方ではだめだ!
何事も本気になって挑まなければ、おもしろくない。それこそ、有り金全部はたくくらいの勢いは必要だ。

あいにく馬の知識を勉強したり、有り金を全部つっこむほどの競馬への情熱を持ち合わせていなかったので、競馬の面白さを知ることはなかったのだが、こんなに多くの大人たちが熱狂するという場面を見られただけでもいい経験であった。


家に帰って競馬体験談を夫に伝えると、まったく興味がなさそうな声で、「あそこはカオスやで」とだけ返した。




2017.2.27『もそっと笑う女』より

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