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ベルばらを語りたい。

はまってしまった。まんまと。あのきらびやかでふわふわした雰囲気の中に潜んだ壮大な歴史ロマンと劇的な人間ドラマに。やられてしまった。

はじめはちょっとした興味だけだったのだ。
母から「昔の少女漫画読んでみな!すごいから!」と言われて王家の紋章やらはいからさんが通るやらを勧められたが、ヨーロッパ史に興味があるし、そもそも小学生の時に途中まで読んだことがある(当時はよくわからなかった)ので、スッと入り込めるだろうということでこの漫画を所望した。そしてごく軽い気持ちで読んでみた。
そしたらどうだろう。気づいたら最終巻まで読んでいて、東に照りつけていた太陽はもう沈んでいた。そうして読み終えたあとの少しの充足感と凄まじい喪失感は、名作映画3本イッキ見したときに相当するものだった。

まず、心理描写がすばらしい。作中ではセリフよりむしろ、キャラクターの胸の内が語られていることのほうが多い。そして、その言葉たちに直接的で単純なものは一つもない。ロココの世界観に完全一致した、芸術的かつ哲学的な言葉がページを彩っているのだ。 
絵の構図も抜かりない。キャラクター同士の構図の対比、作画から垣間見える心理状態…もはや解説付きの名画を見ているような気分になっていた。
そしてなにより、物語のエンディングが、個人的にヒットした。この物語では、決して軍隊と戦争を美化していない。革命に身を投じたキャラクターたちは、皆悲しい死を遂げるか、それを嘆きながら見送っているかである。もちろん2人のヒロインのように、それぞれ戦い抜いて誇り高い最期を迎えるという描写もあるが、その場面では彼女たちの「祖国のために身を捧げた」姿というより「自分の信念を貫いた」というところにフォーカスされている。昔の軍隊に要求されがちだった「有無を言わさず、国のために戦う」というハチャメチャな理想を、うまく躱しているのだ。

今まで読んでいて好きだと思った漫画の中には、自分の信念と一致しないというのがいくつもあった。しかしこれに関しては、もう胸を張って好きだと言えるだろう。1つ欠点を言うとすると、周りに読者がいないことである。もう50年も前の漫画なので大学生に読者が少ないのは当然なのだが、これは是非とも学生、いや全世界の人間に勧めたい。

シトワイヤン。ベルばらを読め。

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