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いつもそばに君がいた

#ショートショート
#掌握
#ほろ酔い文学

最近になり、お酒の種類が多岐多様となってきた昨今。

少し前までは、アルコール9%というストロング系が流行っていたが、健康志向の高まりにより、今では微アルコールと呼ばれるものやノンアルコール系が随分増えたように感じる。
ストロング系は一気におさらばといったところかな。

だが私は、相変わらずビール一筋だ。

私の父も大好きで、よくグラスを冷凍庫で冷やすように言われていた私は、父の言う通りにすると、お礼だといって手渡してくれたスルメに一心不乱にむしゃぶりついた。

就活がうまくいかなくて、半ば投げやりな気持ちで居酒屋に入り、その茶色汗をかいた中瓶の君を見るだけで、何だか安心した。

入社して数年経ち、後輩も責任も増えていき、重圧に押しつぶされそうになった時、居酒屋でクラリオンガールの美女が口を大きく開けてビールジョッキを持っているのが目に入ってきて、
「とりあえず、生!」
と、通りがかりのアルバイト兄ちゃんに声を掛けてしまったことは、ほろ苦い思い出だ。

愛しい人との結婚式では、祝福の味がした。
小学生になった子どもたちに良いところを見せようと、近所の例大祭では重い神輿を担ぎ、休憩所で飲んだ後に吹き付けた風は爽快に感じた。

そんな数々の思い出に、君はいつも寄り添ってくれた。

そうして今、愛する人と最後の時間を迎えようとしていた。
白い百合に囲まれて微笑んでいる妻を横目に、俺は見慣れた茶色い中瓶を手に取った。

とくとくとく。

今日だけは、ほろ苦い味がした。


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