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【慣用句deショートショート】しつこくてタコが…

#ショートショート
#短編
#慣用句
#耳にタコができる

あるところに、おしゃべりな人がいたそうな。
ちょっとあいさつ、のつもりが、気が付くと一時間が立つのは珍しいことではなく、相手も最初は喜んで話に応じていたが、その内めんどくさくなった人たちはヤツの姿を見かけた途端、柱に身を隠すようになってしまった。

そんな時のこと。
各地の海岸で、大量のタコが打ち上げられた。
このところタコが不作だったこともあり、人々は大いに喜んだ。

もちろんおしゃべりなヤツも、一緒になってはしゃいでいる。
ここのところ、話したくてウズウズしていたヤツは、この騒ぎに応じて今日こそ話しかけてやろうと彼らに近づいていった。

「やぁ、久しぶりだね」
話しかけられた青年はギクッとした。
「や、やぁ…どうも」
「元気だった?なんかさぁ、最近人と全然会わなくてね…」

そうして彼はそのまま談笑へと流れ込むはずだったのだが…。

「あの…耳にタコが付いてますよ」
青年が怪訝そうな顔で、ヤツに告げる。
「えっ?ウソ!?」
ヤツは青年と離れ、途中で見つけた水たまりに自分の耳を映してみる。

…確かにタコが一匹、吸い付くようにくっついている。
そこへ、別の青年が通りかかった。
すかさず話しかけるヤツ。
「ねぇねぇ、見てみて」
その青年はギクッとしながら、向けられた耳を凝視する。
「あ~、タコが二個、くっついてますね」
青年は事実だけをサラッと告げ、足早に去って行ってしまった。

俺の頭は「?」でいっぱいだった。
「なんで、俺の耳にタコが…しかも増えてるし」

するとその呟きを偶然耳にしたおっちゃんが言う。

「そりゃあ耳にタコが出来るぐらい、しつこく話しかけられたらそうなるだろうよ」

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