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─『The King』

Netflixオリジナル映画。

ティモシー・シャラメに惹かれて観ました。

とはいえ、もともと歴史物は好きです、大学の専攻は中国史です、イギリス史のゼミがありましたが、これにも参加していました。

題材は百年戦争

この映画の舞台は15世紀のイングランド。個人的には「イギリス」表記が好きじゃない、日本語にしか存在しないし。UKでいいじゃん、世界で通じる。まぁいいや。

今回の記事は映画の感想というよりも歴史どうだったっけという「世界史まとめ」、みたいになりそう。

映画の主人公には、百年戦争を再開させ、フランスに(快)進撃したヘンリー5世(ティモシー・シャラメ)が配されている。

これまで、フランスの視点から百年戦争を描いた映画や本に触れたことはあったけど、イングランドの側から、という視点は新鮮だった。

というのも、フランス側には「ジャンヌ・ダルク」という超スーパーヒーローがいるので、題材にするには事欠かない。フランスの領土からイングランドを追い出すというハッピーエンド(?)に最終的に落ち着くし、ジャンヌ・ダルクについて言えば、「宗教裁判で魔女認定されたけど復権しました」というハッピーエンドのお墨付き。ハッピーエンドが売れることはこの映画『ストーリー・オブ・マイライフ』でも分かった。

裏を返せば、「百年戦争」全体を描くことは、イングランドにとっては常にバッドエンドなわけだ。ただ、全体ではなく細部に着目すれば興行的にも成功の見込みはあるわけで、本作ではヘンリー5世に焦点が当てられている。

背景

この時代では、王の上に神がいる。めちゃくちゃキリスト教の色が濃い時代だったんだな、とつくづく感じた。

ヘンリー5世が王冠を受け、聖職者が聖油を頭につけるシーンがあり、これが「聖油の塗布」か…!と感動してしまった。

聖油の塗布は、ヨーロッパの王室儀礼関連の話題にかなりの頻度で登場する。ジャンヌ・ダルクの聞いた神の声にも「ランスで戴冠せよ」(聖油の塗布という過程も含む)があった。当時のフランスにおいては、とりあえず「ランス」で「戴冠」しておけば国王としての正統性は取れたので、まず戴冠!というわけだ(ここらへんの話は『ジャンヌ・ダルク 超異端の聖女』(竹下節子)に詳しい)。

王権神授説という考え方は、絶対王政を支える概念として利用されるけども、こうした儀式にも神の存在が見えるのが興味深い。

ところで百年戦争はどうして起こったのか、忘れがち。むしろ、ジャンヌ・ダルクが登場して、フランスが逆転して、彼女が火刑に処されて、1453年に終息したことしか覚えてない。

発端については、劇中で「サリカ法」に言及があった。サリカ法…そういえば聞いたことがあるような、ないような…。Wikiによるとサリカ法に相続に関する項目があり、フランス王国などはその項目を拡大解釈して女王や女系継承を否定していたらしい。確かに、フランス王国の歴史において女王は登場しない。摂政とかでは登場するけど。逆にイギリスは女王いるよね。ヴィクトリア女王とか、エリザベス女王とか、アン女王とか。

で、カペー朝(フランス)が断絶してしまった時に、フランス王の女系の血筋を持つイングランド王が継承権を主張して、戦争に発展したと。ふむふむ。

いつかの中央大学の入試(世界史)で、ヨーロッパ王家の家系図を埋める問題が出たけど、ヴィクトリア女王からたくさんの線が引っ張られていた記憶が…。ここまで繋がってるとは思わなくて、些細なことなのに覚えています。血統って重要なんですね…。そりゃハリーポッター(血筋はこのシリーズにおいて重要な役割を果たしていると思っている)も生まれる…。

イングランドにおいて諸侯の反乱がどうとかでてくるけど、この時代のイングランド、スコットランドそしてウェールズ関係全くわからないので勉強したいなと思う。

今では世界の共通語は英語だけど、中世ヨーロッパは違った。

この時代の中心言語はフランス語であり、それが強調される描写も挿入されていた。イングランド「王」なのに、フランス側と話すときはフランス語を用いていたり。こういうとき、言語は対外的なコミュニケーションの道具であるなとも思う。

ただフランス皇太子が英語を話すシーンもあって、なんでだろうと思っていたところ、皇太子本人が答えてくれました。「英語は単純で醜悪な」言語だからだそうです。話逸れるけど、ヨーロッパ系の言語は似ているところが多くて羨ましい。

映画の感想とか

そろそろ映画の内容について…

描かれるシーンは室内あるいは戦場で、室内は昼間でも薄暗い様子が印象的だった。そして夜はもっと暗い。そりゃ電気とかないから当たり前なんだけど 。「暗黒の中世」という表現があるけども、黒よりも、灰色が印象的な映画だった。

戦争だから血が流れるのだけど、泥だらけのなかで戦っているから、鮮やかな赤よりも、粘着質な泥色で埋め尽くされていた。

アジャンクールでの戦いで、フランスの重装兵に対抗するために、イングランド兵は軽装でハンマー(?)とかを振り回しているんだけども、ハンマー振り回してる戦争映画初めて見たわ。この時代の戦争といえば、騎士といえば、馬に剣だもん。あと弓?ドラマだけど、Game of Thronesでもティリオンが斧を振り回している。適材適所ですね(ハンマーにとって)。

そして、イングランドの兵士が長弓を使っていて、「長弓〜!長弓隊とか世界史で登場したよね〜!」とまた興奮してしまった。

物語の終盤で、敗れたフランス王から「偽りの統一」「偽りの平和」という言葉が出てきた。そもそもこの映画で描かれていた戦争は、イングランド内部の対立を外に向けたものだった、というように描かれていてた。

外にストレスを吐き出すことによって内部の紛争を抑える=平和にすることは、「偽りであろう」「本当の解決にはならない」と、こういうことだ。

「平和には強さと気質が必要」というセリフもあったけど、これが若きヘンリー5世に負わされた責務だった(ちなみにヘンリー5世は若くして亡くなっている)。

平和というのはいつの時代(もちろん今を含める)でも課題なんだな〜。

そして、平和の定義によるけども、完璧な平和なんていうのは達成できない目標でしかない。誰かの「目標は達成できない(性質の)もの」、という文章を読んで、そのときはなるほど〜と思ったんだけど、肝心のなぜその理論になるのかという説明を忘れてしまった…。

BBCがシェイクスピアの史劇作品群を元にしたドラマ(「ホロウ・クラウン」)を制作したらしいので、機会があったら見てみたい。

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