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【散文】想いすぎたがゆえに

 窓の外を見ると建物と建物の隙間からわずかに空が見える。曇天。私は再びソファで横になり、毛布にくるまった。夕方四時。私は、簡単な家事をした後はただただあなたの帰りを待つだけの人生を送っていた。もしあなたが帰ってこなかったら?これがすべて夢だったとしたら?そんな他愛のないことをいつも考えてしまい、焦燥感に襲われ発作を起こす。

 家のドアが開く音がした。午後五時。いつもあなたが帰ってくる時間よりかなり早い。玄関に駆け寄ると「ただいま。仕事が早く終わってね」と微笑みながら言い、靴を履いたまま私をやさしく抱き寄せた。私はあなたの耳元で「噓つき」と喜々とした声で囁き、あなたの背中に手をまわした。「これからはずっと一緒だね」「うん」そんなやりとりに私は少しの罪悪感も抱かなかった。そして、いつまでもいつまでもあなたを抱きしめ続けた。

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