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【散文】杞憂を願う掌

 目を凝らし掌に力を込めて、砂で作った山を何度も固める。辺りが暗くなってからもう長い時間が経つ。海の上には満月が浮かんでいる。

 電話のために堤防を越えて向こう側に行った姉がなかなか戻って来ない。相手は父親らしく、声色から穏やかな話ではないことは確かだった。私はどこか落ち着かない心を、砂で作った山を掌で固めることで紛らわせた。

 腹這いになり、視線を砂の山より低くして砂の山の上に満月を浮かばせてみた。山の大きさに比して月がとても大きく、極めて綺麗である。この満月が今の不安すべてを払拭してくれるのではないかという気がしてくる。

「遅くなってごめんね」と言いながら姉が戻ってきた。姉の表情は暗くて見えないが、心持ち声色が暗い。私は「ほら。山に月が浮かんで見えるよ」と姉に、私と同じ姿勢になって砂の山に浮かぶ満月を見ることを促した。

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