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[随筆] 積読礼賛

 本を読む楽しみと本を買う楽しみは異なる、とある人から聞いた。当たり前と言えば当たり前だが、積読家である私は専ら本を読む楽しみより本を買う楽しみの方が好きなきらいがあるので、その言葉には励まされた。
 ここでは積読することを徹底的に肯定してみたい。積読はよくない、と思われることが多いけれど、これを読んだ後に、積読も悪くない、と思っていだければ執筆冥利に尽きる。

 本を読むために図書館で本を借りる人も多いが、図書館の本の返却期限は決まっていて2週間程度である。よって、図書館で本を借りるということは、図書館と本を借りる私が2週間以内に本を読み終えるという契約を交わすことに近い。それは私にとっては窮屈なものに感じる。
 一方、積読のために本を買うことは、本を読む未来を買うということである。その未来に期限はない。そして、これは何も必ずしもその本を読まなくてはならない、という訳ではない。本を読む未来を現在の自分の頭の中に飼うことで、頭の中は豊かになっていく。よって、積読のために本を買うことは、頭の中を豊かに発酵させる菌を得るようなことである。つまり、本を買った時点で頭の中の豊かさは増し始めるのである。

 私は積読している本の中から、次に読む本を選ぶ。その本は私の頭の中を発酵して、ある程度豊かにしてくれたものであり、さらに本を読むことでその豊かさは磨きを増す。本屋で気になった本を買ってその場で読むのでは到底得られないものである。

 積読は頭の中の豊かさを発酵するためにある。そう信じて、私は今日も積読のための本を買いに本屋へ足を運ぶ。

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